セブン銀行は、SNSを通じて“情緒的価値”を創出し、ユーザーに愛されるブランドづくりに取り組んでいます。今回は、セブン銀行でSNS施策を担当する一色希夏氏をお迎えし、NAVICUS代表・武内一矢との対談形式でその戦略や工夫について伺いました。ユーザーの声を起点にした施策や、社外パートナーとの協業によるSNS運用の秘訣、今後の展望まで、広報・マーケティング担当者にとって実践的なヒントが満載です。

※記事内容は取材日時点での情報となります。

プロフィール

一色 希夏

株式会社セブン銀行 ブランドコミュニケーション部。2017年にセブン銀行へ入社。2024年4月より現部署にて、SNSを中心としたデジタルコミュニケーション施策を担当。

武内 一矢

株式会社NAVICUS 代表取締役。2018年にNAVICUSを設立し、SNSマーケティングやコミュニティ運営支援で300社以上の企業をサポート。多数の企業・自治体のSNS戦略立案・運用に携わる。

セブン銀行ATMの特徴と“情緒的価値”へのこだわり

NAVICUS 武内(以下、武内)
本日はよろしくお願いします。早速ですが、セブン銀行さんのサービスについてお伺いできればと思います。御社のATM事業の概要や強み、そしてSNS運用において掲げている「情緒的価値の創出」という目的について教えてください。

セブン銀行 一色(以下、一色)
よろしくお願いします。セブン銀行は、2001年に創業し、コンビニATMサービスを全国展開した初めての銀行です。現在全国に約28,000台のATMを設置しており、現金の入出金だけでなく、電子マネーへのチャージ、銀行の口座開設など、多機能なATMサービスを提供しています。こうした機能面の利便性はもちろんですが、当社では創業当初からお客さまの声を徹底的に取り入れ、「使い心地の良さ」や「なんとなく好きだな」と感じていただけるような体験づくりを大切にしてきました。

武内
素晴らしいですね。実際にどんな取り組みをされてきたんでしょうか?

一色
たとえば当社ATMでは、季節感を出すために、ハロウィンには魔女、クリスマスにはサンタクロースが画面上に登場するなど、遊び心ある演出を取り入れています。入出金時には、画面上で実際の取引きと連動したお金やカードのアニメーションが表示され、あたかもATMの中の動きを見ているような疑似体験ができるUX設計を行うと共に、お金が出てくるような流れを動画で見せることで、取り忘れ防止対策にも繋がっています。

こうした細かな工夫によって「なんとなく使っていて楽しい」「好きだな」と感じてもらえる体験づくりを大切にしているんです。

こうした演出は一見、ATMの入出金機能には直接関係ないかもしれません。しかし、「なんとなく使っていて楽しい」「セブン銀行のATMっていいよね」と思ってもらえる情緒的価値を提供することこそが当社らしさです。実際、SNS上でも「画面がかわいい」「使っていて気持ちいい」など好意的な声が寄せられています。SNS運用においても、セブン銀行サービスの特徴と併せて、“セブン銀行が好きだ”と思ってもらえるようなコミュニケーションを心がけています。

お客さまの声を起点としたSNS運用のはじまり

武内
セブン銀行さんがSNSを本格的に活用し始めた経緯についても教えてください。ATMは全国に展開されていますが、店舗を持たない銀行ゆえに直接お客さまと接点を持つ機会が少ないと伺っています。その課題解決のためにSNSを始めたとか。

一色
その通りです。当社は支店窓口を持たないため、お客さまの生の声を聞く場が乏しいという課題がありました。そこでまず、2020年頃にソーシャルリスニングを目的としてX(当時Twitter)で公式アカウントの運用を開始しました。

当初は情報発信よりも、お客さまの投稿を見て課題を把握することを重視していたんです。そして実際に困っている声を見つけたら積極的に返信する“アクティブサポート”にも乗り出しました。カスタマーサポート部署出身のメンバーがSNS担当となり、「セブン銀行のATMで〇〇はできるのか?」という投稿に対して「できます。こちらの動画をご覧ください」のように公式アカウントから返信する対応です。

武内
私自身も以前はカスタマーサポートの担当で、そこからSNSマーケティングに携わり始めてから約15年になります。当時、ユーザーとの対話をサービス改善に活かそうとしたときに、「プロモーション視点を持つことよりも、まずお客さま理解の深いサポート担当者が対応することが大事だ」と感じました。セブン銀行さんもまさに、そうした“ユーザー目線”でのアプローチからSNS運用をスタートされたわけですね。

一色
原点はそこでした。実際、私たちもお客さま対応の現場出身者がSNS運用を担ったことで、単なる宣伝ではなくお客さま一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションができるようになったと感じています。

SNS運用の強化とNAVICUSとの協業

一色
その後、2023年にかけて社内のSNS運用体制に変化があり、私の所属するブランドコミュニケーション部にSNS担当が移管されました。ソーシャルリスニングのみではなく、情報発信を強化しようとする中でNAVICUSさんにも支援をお願いしたんです。

当初は外部のSNSコンサルに一部業務を委託するという感覚でしたが、実際一緒に業務を進めてみると、今では社内チームにNAVICUSさんが加わっていただいたような心強さを感じています。NAVICUSの皆さんが当社のWebサイトやサービス内容を細かく調べてくださり、私が気づかないネタも次々と提案してくれるので、助かっています。私は元々ATM関連の業務に携わっていたので、自分ひとりだと話題がATMに偏りがちでしたが、NAVICUSさんのおかげで口座サービスや新規事業など当社の取組みを幅広く、バランスよく発信できています。

武内
ありがとうございます。NAVICUSの行動指針のなかに「Client Mania」という項目があります。「顧客の課題や理想を知り尽くし、志を共にする」ことを理想とし、日々能動的なキャッチアップを行っています。こういった背景もあり、理解度や提案力の面でご評価いただけるのは、大変嬉しいです。

ユーザーに響いたSNS施策事例

武内
ここまでお話を伺ってきて、実際にSNS上で大きな反響を得た施策についてもぜひ教えてください。印象に残っている事例はありますか?

一色
直近では、7月11日の「セブン‐イレブンの日」にちなみ、ATMの画面の数字を「7-1-1」で揃えるゲーム投稿を行ったところ、広告を出していないのに非常に大きな反響を得ました。皆さん夢中で画面をタップし、「揃った!」「難しいけど楽しい!」といったコメントが数多く寄せられたんです。ヒットの要因として、誰もが気軽に挑戦できる絶妙な難易度に設定したことも大きかったと思います。SNSならではの遊び心ある企画を取り入れることで、サービス告知だけでは得られない大きな反響を生み出せた好例ですね。

武内
7-1-1でピタリと止めるゲーム、私も挑戦しました(笑)。こういった「タイミングよく止める系」の投稿は世の中にもありますが、なぜここまでヒットしたのでしょう?

一色
実は社内ミーティングでも「なぜこんなに伸びたんだろう?」と、この投稿が話題になり、皆で実際に画面をタップして遊びました。「つい夢中になってしまうね」と(笑)。要は、まずその状態自体がヒットの理由かと思います。より具体的に言うと、止める難易度の“塩梅”が絶妙だったのではないかと。

武内
なるほど、参加ハードルの調整がポイントだったわけですね。デザインを担当したNAVICUSのスタッフが過去の似た投稿事例を研究し、あえて少しルーレットの速度を落として誰でも狙って揃えられそうな設定にした背景もあります。それにより、ユーザーも「自分のタイミングで止められた!」という達成感を得やすくなり、多くの参加を促せたのではないでしょうか。

一色
サービス内容の告知だけを追求していては得られない反応だと思います。SNSというユーザーとの双方向の場だからこそ、遊び心のあるコミュニケーション施策を織り交ぜることが大切だと改めて実感しました。

エンゲージメント重視のKPI設計と成果

武内
現在、SNS運用ではエンゲージメント率を主要KPIに据えられているそうですね。その理由は何でしょうか?

一色
現在はエンゲージメント率とインプレッション数を主要KPIにしています。フォロワー数より、投稿が実際に見られて反応されることを重視したためです。

武内
加えて、フォロワーと非フォロワーでセブン銀行に対する愛着度に差が出るという調査結果もあると伺いました。そのあたり詳しく教えていただけますか。

一色
2024年7月にXのフォロワーと非フォロワーの比較調査を行った結果、フォロワーの方が当社への関心やイメージの良さが明らかに高いことがわかりました。たとえば、フォロワーの方がセブン銀行について自主的に調べたり、Webサイトを訪れる割合が高く、当社に対し「独自性」「革新性」などを感じている人の比率も非フォロワー層より大幅に上回ったんです。

武内
なるほど。SNS上でファンとの接点を増やし情緒的なつながりを築くことが、データで見てもブランド理解や好意形成につながっているわけですね。

新たなチャレンジと“お客さま目線”の重要性

武内
今後、Xの新機能や他のSNSプラットフォーム活用など、挑戦したい施策はありますか?

一色
はい。今は特にXで動画投稿の機能が強化されつつあり、当社としても積極的に取り入れてみたいと考えています。

例えば、セブン銀行の取組みについてご紹介しているWebマガジンである「STORY of PURPOSE」などを短い動画に要約して発信することで、文字よりも直感的に伝わりやすくなると思うんです。また、InstagramやFacebookのアカウントもすでに持っているので、今後はそれぞれの特性に合わせて投稿を最適化し、本格的に数字を追いながら運用を強化していきたいとも考えています。

武内
なるほど。新しい機能やプラットフォームを使うこと自体が話題性にもつながりますよね。ただ一方で、企業によってはAI生成コンテンツの扱いなどで炎上するケースも見かけますよね。どことなく、「新しいことやってて凄いでしょ」のドヤ感が伝わってしまうというか。

一色
確かに、AIや新技術の使い方には慎重さも必要です。便利な技術をどう取り入れるかは常に模索していますが、大切なのは「面白いから導入する」ではなく「お客さまにとって意味があるか」という視点を持つことだと思います。どんな新しい手法でも“お客さま目線”に立っているかどうかを基準にして判断するようにしています。

武内
「お客さま目線を忘れない」。まさに今日の対談を通じて一貫して出てきたキーワードですね。貴重なお話、ありがとうございました!

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