スマートフォンゲーム市場が成熟し、新規ユーザー獲得コストが高騰するなかで、
「コミュニティ施策は本当に売上に効くのか?」という問いは、多くのゲーム事業者にとって避けて通れないテーマになっています。

本対談では、バンダイナムコエンターテインメントで数多くのタイトルのプロモーションを手がけ、現在はオヨネコ合同会社としてゲームメーカーのマーケティング支援を行う辻本正太さんと、SNS・コミュニティマーケティングの支援実績を持つNAVICUS代表・武内一矢が、ゲーム事業におけるコミュニティの役割について掘り下げます。

プロフィール

辻本 正太

オヨネコ合同会社 代表。バンダイナムコエンターテインメントにて家庭用・モバイルゲームのプロモーションを担当し、『アイドルマスター』をはじめとする多数のIPタイトルのマーケティングに携わる。その後、ゲーム会社や広告代理店を経て独立し、2024年にオヨネコ合同会社を設立。現在は、これまでのゲームプロモーションの経験を活かし、ゲームメーカーのマーケティング支援やIP「オヨネコぶーにゃん」の展開などに取り組んでいる。

武内 一矢

株式会社NAVICUS 代表取締役。2018年にNAVICUSを設立し、SNSマーケティングやコミュニティ運営支援で300社以上の企業をサポート。多数のゲーム企業をはじめ、企業・自治体のSNS戦略立案・運用に携わる。

自己紹介〜BNEでの役割とコミュニティの入口

NAVICUS 武内(以下、武内)
それでは、よろしくお願いします!早速ですが、ご覧になっている皆さん向けに自己紹介をいただけますでしょうか。

オヨネコ 辻本(以下、辻本)
オヨネコ合同会社の辻本といいます。起業したのが2024年なので、まだ2年目になったばかりですが、元々バンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)でゲームのプロモーションを長く担当していました。その後、別のゲーム会社と広告代理店を経てフリーランスになり、自分の会社を設立した形です。今までのゲームプロモーションの経歴を活かして、ゲームメーカーさんのマーケティング支援をさせていただいてます。

武内
辻本さんとは2016年ぐらいからご一緒してますよね。当時僕がディー・エヌ・エーにいて、BNEさんとの協業タイトルのコミュニティ施策を担当していて、そこで関わったのが始まりかと。その後、2018年のNAVICUS設立当初からBNEさんとはずっとお取り組みさせてもらってます。

辻本
そうですね、ありがたいです。

武内
BNE時代の役割についても説明してもらえますか?

辻本
元々は家庭用ゲームのプロモーションを担当していて、そこからライセンスチームに移り、アイドルマスターのイベントなども担当していました。その後ずっとやっていたのは、アプリゲームのマーケティングチームで、武内さんと一緒にガンダム系のプロモーション活動をやったり、最終的にはマネージャーという形でオリジナルIPなどを扱うチームのマネジメントを担ったりしていました。

オリジナルタイトルはどうしても大型IPタイトルとは違って、コミュニティやユーザー育成といった部分が非常に重要なミッションになるので、それらにも力を入れていました。

武内
BNEさんは、様々なゲームタイトルを展開されてますが、やはり大型IP系のイメージが強いですよね。

辻本
そうですね、特にアプリゲームのなかで完全オリジナルゲームはかなり少なかったです。

武内
今回ぜひ伺いたいなと思ったのが、先程もお話があったコミュニティやユーザー育成の重要性についてです。辻本さん自身がコミュニティに関わり始めた時のお話を紹介していただければと思ってます。

小規模タイトルで気づいた「ファンベース」の力

辻本
それでは早速。武内さんとお仕事を始めたころ、事業規模があまり大きくないIPゲームタイトルを担当したことがありました。予算規模が小さめなので、どうやってお客さんに広げていくかが課題でした。当時のアプリビジネスだと、規模を求めるマーケティング施策が多かったので、苦しい戦いになりそうだなと思っていました。そんななか、一部の熱烈なファンを起点にどうやってクチコミを広げていくか、MOTTO社の佐藤基さんや武内さんから知恵をいただいて、一緒に戦略を立てました。その過程で、立案の仕方を非常に学ばせてもらいました。

その後、社内で「ファンベース」という言葉が非常に飛び交うようになり、提唱されたさとなおさんの本が話題になり、社内の一部で書籍が配られるようなことがありました。そこから、リソースをかけてコミュニティ施策をやっていく機運が強まりましたね。ただ当時はIPに頼るプロモーションが多く、コミュニティに対しての知識が欠如していたので、武内さんにお声がけさせていただき、コミュニティ施策動向の市場調査から、BNEのどのタイトルでコミュニティ施策に取り組むべきかの示唆出しまでアウトプットしてもらった、という流れだったかと思います。

武内
あの当時最初にご一緒したIPは、ひとつ前に出ていたゲームが結構前で、ファンコミュニティが一旦落ち着いてしまっていたという難しさもありましたね。アダルト要素が強いタイトルでプロモーションの選択肢が限られる課題もあったかと思います。

辻本
何かしらのチャレンジをしないと広がらないと感じていましたが、想像以上に施策実施のハードルが高く、当初の想定ほど思いっきりやれたかというと、悔いが残るような部分もありましたね。ただ、コアなファンとTwitter(現:X)上でコミュニケーションを取っていき、ゲーム内KPIが上昇するところまで数字分析できた点は、自信になりました。

炎上リスクと“人格運用”、ガイドライン作り

辻本
コミュニティ施策をやる上でいつもハードルになるのが、プロジェクトとして納得度を持って取り組めるかですよね。広告に100万円かけて1,000人のユーザーを連れてくるのか、コミュニティに投資するのかで、コミュニティを選べる担当者はなかなかいない。そういう点で、このタイトルはプロデューサー自身が課題感を持って積極的に取り組んだからこそ、色んなチャレンジができたと思います。

武内
ユーザーとSNS上で直接対話する運用を、運用ガイドライン作成とセットで取り組んだので、結果として他のタイトルにも流用されていったのは良い点でしたね。

辻本
最初に直接対話に取り組む時は、会社としてもSNSやコミュニティに対して成果への期待より炎上リスクの方が怖いという温度感でした。武内さんが解説されているように5つのS(政治、宗教、セクシャル、差別、スポーツ の5つの頭文字S)に触れると炎上しやすい※とか、そういう前提に加えて、監修フローも厳格に決めることで、そう簡単に炎上しない体制を作ったので、会社内でも理解が進んだのかなと思います。

※価値観や立場の違いから、明確な正解がなく、議論が炎上しやすいテーマのため

武内
あと、実際ユーザーとの対話に取り組むと、開発チームの士気が上がる場面も多々あるんですよね。応援の声や率直な感想も届きやすくなるし。そこの価値を忘れちゃいけないなと感じています。

全タイトル分析とフレームワーク設計

辻本
一時期、武内さんにBNEの大半のスマホゲームのTwitterアカウントのアナリティクス情報を共有して、横断的に分析をやっていただいたじゃないですか。

武内
やりましたね!タイトル特性やフェーズの違いから色んな示唆が見えました。

辻本
ああやって仮説をもとにカテゴライズして分析していくと、やはりタイトルごとに求められているものが結構違うことが可視化されましたよね。特にオリジナルゲームIPの場合、やっぱり運営のメッセージにお客さんの注目度や信頼度が集まる印象がありました。一方で、アイドル系だと、もちろんそういったメッセージも大事ではありつつ、ちょっとした情報をもとにお客さん同士で盛り上がれるものの方がより広がりやすいよね、と。すごく勉強になりましたね。

武内
公式が場作りをした時に、白けてしまうケースと盛り上がるケースの違いがありますよね。公式が勝手に解釈を固定してしまいファンが萎える、みたいな。特にアイドル系は「介入はせず燃料投下(話題提供)はする」が鉄則だと理解しました。

辻本
だから市場理解が必要だねと会社の空気ができた後、予算と工数をかけただけ成果が出るのかという議論があって、今度は自分のタイトルでその戦略作る時ってどうすれば良いんだって話になり迷子になる、武内さんに相談、と(笑)

お金とリソースをかける以上、どういうKPIを持つべきか、フレームワークから作ってもらったのをよく覚えてます。例えば、「認知」「行動」目標ドリブンのフレームワークで整理してもらいました。お陰様で、最初から迷子にならずに取り組めたと思います。

武内
フレームワークに沿ってまとめることは、チーム内でコンセンサスを取る上でも重要ですね。

辻本
これを伝えたいとかこう認識してほしい、という部分はある程度自分たちで立てられる部分もあると思いますが、それをコミュニティでどの人たちにどの場所でどの順番で伝えなきゃいけないかまで、NAVICUSさんに作っていただいた時は、とても整理されて上手くいったように感じています。

コミュニティ投資の優先度が高いゲーム、低いゲーム

武内
今改めて問われたら、どういうゲームこそコミュニティに注力すべきだと答えますか?

辻本
やっぱり長期運営するにあたっては、基本的にコミュニティの考え方や概念は必ず必要だろうなと思っています。その上で、対戦が入るようなタイトルはとりわけ必要かなと思っています。ゲームを遊ぶサイクルはそれぞれあると思いますが、一般的なアプリゲーム、例えばRPGだとしたら、ゲームをなんとなく進めていって、最新情報はSNSとか公式から入手して、ゲームの攻略Wikiとか見ながら性能を確認して、自分で分析して、となんとなく遊ぶサイクルがありますよね。対戦ゲームだと、対戦のモチベーションの維持だとか、マッチングする時、ギルドを作る時に、運営のサポートが無いと持続しづらくなる。費用対効果の部分はありますが、モチベーションの部分をコミュニティで支えないと骨子が弱くなってしまうかなと思います。

武内
人自体がそもそもコンテンツであって、他のゲームとの唯一無二の違いを作る要素にもなり得ますよね。

辻本
MMOみたいにゲームのなかでコミュニケーションが完結できればそれはそれで良いのかなと思う部分もあるんですが、アプリゲームで全て十分に実装できているケースは少ないですよね。なのでゲーム外でのサポートが必要なタイトルは多いのかなと。

武内
なるほど。他にも何かありますか?

辻本
カジュアルなゲームより圧倒的にコアなものの方が、やはり必要性が高いですね。コア向けでユーザーがしっかり付いてるタイトルの方が、一定のコミュニティが形成されることで辞めづらくなりますし。

社内説得とLTV分析、1万人データで見えたこと

武内
ゲーム事業会社のなかで、コミュニティ施策への注力が進まないケースも多々あるかと思います。どういった指標・どういった成果目標を追えば取り組みが進むとお考えですか?

辻本
ずっと悩んできたところですね(笑)僕自身も最初は半信半疑でしたが、一番わかりやすいのはトライアルで実績を作ることでしたね。まずは市場状況や他社動向を見て、コミュニティにこれだけ注力している会社が増えていると社内理解を進める、あとは参考図書などを回覧しての風潮作りはありましたね。まずこの「空気」がなかったら、何を持っていってもどうしようもないと思うんですよね。

その次に、最終的には売上に貢献しないと意味が無い。なのでコミュニティは本当に売上に貢献するんだと証明する必要があります。実際にNAVICUSさんと取り組んだ例ですと、特定タイトルのアプリとXで1万人のユーザーを紐づけて、コミュニティ施策に注力した上で1万人のお客さんのLTVがどう変化するかをしっかり数値で可視化しました。

面白かったのは、コアユーザーと言われる上位課金者の動向はあんまり変わらなかったんですね。SNSでコミュニティ施策に触れたからといって、そもそも高課金者なのであまり変わらない。ただミドル層のユーザーは、ゲームとの単純接触が増えたことによって、その後の課金なり継続に影響が出て、LTVが上がったことがはっきり数字で見えました。年間インパクトでいうと、月に数十万円相当のリソースを投下しても十分に元が取れるよね、という結果が見えました。

武内
この分析は、労力も時間もかかりましたが、とても価値が高かったですね!たまに「コミュニティに注力してもユーザーは変化しない」と語っている人で、このコアユーザーの動向にだけ目線を置いて話しているケースがあるように感じます。

辻本
これらのデータを見た上で、今度は理想のコミュニティを実現させるための施策を決めていく。クチコミひとつとっても、発信者の母数を増やすのか、一人あたりの回数を増やすのかで違う。理想の状態を描いて、先程のフレームワークに落とし込みKPIと計画を決める、という手順で進めてましたね。

ただ、この分析は工数なり予算なりの面で、どの会社でもできるかというとちょっと難しいとも思います。なので、それこそNAVICUSさんなり僕なり、分析を経験した人を呼んで話してもらうと良いのではないかと。

武内
そうですね、それが結局近道だと思います。

コミュニティは“顧客理解と接客の場”である

武内
僕はコミュニティ施策は、顧客理解と接客の場だと思っています。なので、コミュニティの取り組み自体は色んな形や深さがあると思いますが、「顧客と関わっても意味ない」というオチは違うんじゃないかなと根本的に思ってます。そのなかでも、とりわけファーストステップである「傾聴(顧客の声に目を向け、考えや要望を把握する)」が十分じゃないタイトルが非常に多いと感じています。前提となる目線が合っていないので、施策を打ち出しても反響が良くない。

辻本
そうですね。本当に担当者やプロデューサーの、ゲームへの理解や顧客への理解にも左右されますよね。BNEでも、先に挙げた成功事例には、IPファンに深い理解のあるプロデューサーがいたり、SNSが得意な担当者がいたり、仮説ベースでやるべきだと理解している人間がいたから上手くいった部分はあると思います。孤軍奮闘してたらなかなか進まなかったんだろうなと思います。

武内
読者の方に、どうやったらコミュニティ施策が進むかと問われたら、「あなたがジャンヌ・ダルクになるんだ」と答えるんですかね?

辻本
それは、重すぎる(笑)自分自身での啓蒙活動もしてはいましたし、横のレイヤーや上層からの後押しはありましたが、本当にジャンヌ・ダルクだったら・・・・・・。

武内
結果的に死んじゃいますからね・・・・・・。

これからの展望

武内
最後に、これからの展望についてお伺いできますか?やっぱりIP(オヨネコぶーにゃん)(*1)を起点にした施策ですか?


辻本
オヨネコぶーにゃんをせっかく社名として入れてますからね。昔から好きでいてくれているお客様もいるので、LINEスタンプも毎月売れ続けてはいます。タイミングさえ合えば、何かしらリバイバルなど取り組めたらなと思ってます。

武内
IPビジネスやコミュニティ施策のご経験やノウハウが活きそうですね!僕としても、もしご一緒できる部分があればぜひチャレンジさせてもらいたいです。今回はありがとうございました!

*1:『オヨネコぶーにゃん』は、市川みさこ氏により1973年から『週刊少女コミック』(小学館)に連載されたギャグ漫画作品。テレビアニメ化もされ人気を博した。辻本さんは、原作者・市川みさこ氏の実子でもある。
©市川みさこ

NAVICUS Inc.

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