スマホゲームの長期運営が年々難しくなる中、DeNAの『逆転オセロニア』は2026年2月で10周年を迎えようとしています。そこにあったのは、短期KPIの最大化ではなく「プレイヤー同士の人間関係」を最重要指標として置くという発想です。

本対談では、プロデューサーの香城卓氏に、コミュニティを起点にした意思決定、リアルイベントを中心とする施策設計、成果の可視化、そして炎上や不満と向き合う“誠実さ”まで、10年を支えた運営のリアルを聞きました。

プロフィール

香城 卓

株式会社ディー・エヌ・エー ゲームサービス事業本部『逆転オセロニア』プロデューサー
DeNAにて、スマートフォン向けゲーム『逆転オセロニア』のプロデューサーを務める。2016年のサービス開始当初から同タイトルの運営に携わり、ゲームデザインのみならず、ユーザーコミュニティを軸にした長期運営・マーケティング設計を推進。リアルイベント、公式大会、周年施策などを通じてプレイヤー同士の関係性を育む運営手法に取り組み、競争の激しいモバイルゲーム市場において、10周年を迎える長寿タイトルへと成長させてきた。

武内 一矢

株式会社NAVICUS 代表取締役
2018年にNAVICUSを設立し、SNSマーケティングやコミュニティ運営支援で300社以上の企業をサポート。多数のゲーム企業をはじめ、企業・自治体のSNS戦略立案・運用に携わる。

10周年を支えた最大要因は「コミュニティをKPIに置いたこと」

NAVICUS 武内(以下、武内)
それでは、よろしくお願いします!

ディー・エヌ・エー 香城(以下、香城
よろしくお願いします!

武内
『逆転オセロニア』、10周年ですね。昨今、ゲームを長く運営していくことの難易度が上がっていると思います。その中で10周年を迎えられた要因として、とりわけ大きいものは何でしょうか。

香城
やっぱり初期からコミュニティを起点に展開していたことが大きいと思います。

2016年からサービス展開していますが、昔の方が「コミュニティって何?」という環境でした。そんな中10年続いた大きな理由の一つに、コミュニティをどうやって育てていくかを常に最大KPIにしていたことがあると思います。短期的なアクティブユーザーが何人か、といった部分では当然僕らより大きいモンスタータイトルがたくさんある。ただ僕らは瞬間的な沸騰より、遊んだ人たちがどれだけ人間関係を作るかがLTVに繋がると初期の分析からも理解していました。

たとえばゲームのランキング上位にいるような、一番ゲームを深く長くプレイしてくれている人たちは、オセロニアを通じてオセロニアン同士の友だちができた人たちなんですよね。その属性に早く気づけたので、ちょっとずつしか増やせないものの、そこを拡大していくことで、最も強固な事業基盤ができるのではないかと信じてやってきた、ということに尽きると思います。

武内
確かに。2016年のオセロニアリリース当時は僕もDeNA社内にいましたが、その頃のDeNAでのゲームの成功体験はモバゲータイトルや大型IPタイトルが多かったですよね。その中でオセロニアはかなり異質だったと思います。IPでもないし初見の人がスカッとUXを理解できるものでもない。

香城
ゲーム性の難しさがありますよね。

武内
その中で最初から一貫してユーザーと向き合ってきていましたよね。あえて問うとしたら、そこが重要だと思って取り組んだのか、他の勝ち筋が難しいという背景があったのか、いかがでしょうか。

香城
今は上手くいったから逆算的に言えることですが、当時「コミュニティでやっていく」と意思決定した時、オセロという誰もが知ってるゲーム性を持っているとはいえ、完全オリジナルのゲームで勝っていくためには莫大なマーケティングコストがかかると予想していました。当時はプロジェクトとして大きな予算をかけることが難しかったため、コミュニティの前段として、「弱者の戦い」を強いられている中でどうやって戦っていくかが求められていました。

武内
ここが勝利の条件だったわけですね。

香城
だとすると、他のタイトルがやっていないこと、かつ他のタイトルと違う事業曲線を描いていく攻め方が良いと思いました。多くのゲームは一気に沸騰してどう長く耐えるかですが、海外ゲームやコミュニティサービスが停滞期に何をしていたかを様々見た上で、我慢の時期は存在するが、コミュニティが沸騰すれば成長曲線に乗ると信じてやっていく、と決めました。そうするしかなかった部分もあるし、それで成功している事例がインターネットの世界にあったのも理由です。

武内
僕自身DeNA以前からSNSマーケのキャリアがあり、ローソンさんのSNSプロモーションなどに携わらせてもらっていましたが、強い競合がいる中で少しでも顧客に振り向いてもらうための戦いでした。こういった時流は当時出始めていた中、オセロニアの挑戦はゲーム業界においてはかなり早い方でしたね。

10ヶ月経って訪れた「沸騰」

武内
先程お話いただいたような「沸騰」のような手応えは、どのタイミングから感じられるようになりましたか?

香城
明確に2016年の年末ですね。リリースしてから10ヶ月近くは何も起きなかった。ただその頃も、リアルイベント形式で日本中を回っていました。1人しか来てくれなかったり、集まっても10人だったりなんていう場面もありましたが、自分と同じ町にオセロニアンがいると感じられる機会になっていました。これは、何よりも発信のための心理的安全性になっていたはずです。

武内
あぁ~、確かに確かに。

香城
「俺これが好き!」と発信するのって、叩かれるリスクがあったり恥ずかしかったりすると思うんですよね。自分に共感してくれる人がいると確信が持てている状態が重要なんだと考えました。それを続けていく中、2016年末に一度だけマーケティング予算を投下しました。その時、「遂に来た、俺達のオセロニアが!」「マジやった方がいいよ、俺結構前からやってたけど」といった投稿がSNSタイムラインに大量に並びました。それを見て、次の波を狙っている配信者の方々が動いたんです。「この感じ、次オセロニアかもしれない?」と。結果として、2週間ぐらいアプリストアのトレンドワードにオセロニアが入る状況が起きました。2017年1月は、日々どんどんユーザーが増えていくようになりましたね。

武内
一般的な企業では、コミュニティの戦略と、獲得観点でのインフルエンサー起用は位置づけが分かれていることも多いと思います。オセロニアの場合、最初からインフルエンサーをコミュニティの輪の中に入れて考えているように感じます。その感覚はどこから生まれたんですかね?

香城
僕らは日本中を回ってユーザーに会ってるので、プレイヤーというバーチャルな存在ではなく、実際に楽しんでくれている人として認識できるようになってたんですよね。

インセンティブを設けたキャンペーンで面を取っていくやり方も、マーケティング的には存在すると思いますが、心の中に入っていくプロモーションって本当に難しいんだと思ってます。真実じゃないとみんなわかってしまうので。なので、リアルに行われていることにフォーカスすることが、一番刺さるマーケティングだと思って取り組んでいたところがあります。

武内
リアリティのあるマーケティングで、そもそも明確に線引きしているものではないということですね。

オセロニアコミュニティを循環させるリアルイベント

武内
オセロニアのコミュニティ施策の全容を、改めてご紹介いただけますか?

香城
コミュニティというと、リアルイベントが年間の中心になっています。

まず「オセロニアンの宴」という公式ファンミーティングを全国6都市を中心に開催しています。こちらは現地交流だけでなく、イベント後にオンラインでも繋がっていくきっかけになっています。また、「宴レポート」という形で来てくれたオセロニアンたちを可視化しています。人をコンテンツ化し、コミュニティを広げていく最初の一歩として取り組んでいます。

次が「オセロニアンの戦」という全国大会です。全国6都市とオンラインで予選をやって、代表が集結してその年のナンバーワンを決める場になっています。対戦ゲームとして突き詰めている人たちを可視化する場になっています。

毎年スター選手が生まれていきますが、その選手が勝ち上がるまでにコミュニティの中でどんな関わりをしてきたか、誰と練習してきたかなど、選手の周りにフォーカスして特集することを重視しています。そうすることで、大会自体がコミュニティ代表者の戦いになるわけです。

こういった考えがあるので、僕らは大会に賞金を付けないようにしています。金銭的なものより、コミュニティの中での存在感こそがオセロニアンにとっての価値指標だと思っているからです。

武内
コミュニティの中でドラマを作ることを意図しているんですね。

香城
選手入場の映像も象徴的で、戦績等は1,2秒しか使われない一方、その人の周りにどんなオセロニアンがいるのかなど、コミュニティの背景を伝える映像になっています。今年は誰が1位になるのか、といった部分を超越した選手一人ひとりの人間関係や物語を表現しています。

武内
他にもイベント施策はありますか?

香城
あとはアニバーサリーイベントで、「オセロニアンの祭典」と呼んでいます。

これはわかりやすく、大きなステージとYouTube Liveがあり、ユーザーの方々に来てもらい、オセロニアンセレクションという1年間の二次創作活動の表彰、クイズ、新情報発表などが行われます。イベント参加者はこれらを共通の体験として持ち帰るので、来てくれた人のその後のゲーム内の各種数値の上がり具合は凄まじいです。僕らも最も気合を入れてますし、10周年はもちろん!ソシャゲ史に残る伝説にしようと思って準備しています。

ゴールから逆算した設計と、成果の可視化

武内
ところで、我々はよくクライアント企業から「まずSNSをなんとかしたい」とご相談いただくことが多いです。一連のリアルイベントの山場とSNSは、どう組み合わせている或いは棲み分けていますか?

香城
もちろんリアルイベントを大事にしていますが、時間的な制約があるのでオンラインのコミュニティも活用する必要があります。ただあくまでリアルをスタートでありゴールにしています。いずれも手法なので、コミュニティ拡大をするにはどうするか、逆算して正しいアプローチを描いています。

武内
イベントの合間のつなぎ、ないし参加のきっかけとしての価値が大きそうですね。リアルイベントについてですが、関心がある企業が多い中、イマイチ踏み切れてないケースが多いと思います。オセロニアでそこを越えられている理由は何ですかね?

香城
わかる(笑) 結論から言うと、事前の「意味あんのか」みたいな議論を無視する座組を作ることに尽きちゃうと思います。リアルイベントを開催した翌週月曜日にゲーム内KPIが上がるかというと、ほとんど変わらない。人間関係を作っていく舞台装置なので、1人でも2人でも友だちになってくれればいい。そうなると、成果が出る時間軸が短期じゃなくなる。少なくとも180日ぐらいは見ないとわかりやすい数字になってきません。

ただ、僕がオセロニアを見ている限り、何か施策をやった時に最もLTVが上がるのが、間違いなくリアルイベントだと思っています。ここまで180日以上の中長期で参加・非参加者で差が出る施策はない。イベントに参加してくれたユーザーはIDでトラッキングができるので、同じような属性のユーザー(イベント応募はしていて、抽選で落ち不参加だったことだけ異なるユーザー)とサンプルグループを作って計測すると、イベント参加有無だけが違うユーザー群でLTVに文字通り「桁違い」の差が出る。長い目で見るとコミュニティ施策に関わる費用もすべて回収できた上で、しかもゲームの中では繋がりが残るわけです。

武内
その人たちからの波及効果もありそうですよね。

香城
その通り。見えないマーケティング効果が絶大に効いています。他のマーケティング施策をブーストしている面も大きい。「後から見てわかる」ものなんだと社内で握って、最初は後ろ指をさされるものだと信じて取り組む。それを社内コンセンサスにして取り組むことが一番重要だと思います。

武内
前提として、定量的な部分と定性的な部分のバランスが良いように感じます。両方見つつ時間軸の違いも捉えている点が非常に重要ですね。

コミュニティが強いほど、逆流も起きる

武内
10周年を迎えるまで、どんな波乱があったかも教えてもらえますか。

香城
もちろん良いことばっかりではなく、コミュニティでは逆流が起きやすい側面があります。

例えば我々が不義理をしてしまった時など。昔、ゲームの中で「こういう改善をやっていく、必ず解決します」と発表し、称賛を受けた場面がありました。その翌日に出たキャラクターのプロモーションで、本当に見落としだったんですが、前日のYouTube Liveで発表した内容と逆行するメッセージが一つだけ混ざってしまっていました。このコミュニケーションミスで、とんでもなく炎上しました。前日に称賛してくれたからこそ、ユーザーを騙したのではないかと大炎上したわけです。コミュニティと付き合っていく時は、常にユーザーコミュニケーションと向き合い続ける必要があります。トラブルの時こそ顔を出して、なぜ・誰がどんな意図で行っているかを誠実に発信していくことが、ものすごく重く運営に突きつけられると思います。

武内
ゲームの改善自体も、こちらが立てばこちらが立たぬみたいな部分が、すごく難しいですよね。

香城
武内さんが仰るように、対戦ゲームで特定のデッキが強くなっている時って、必ず何かが割を食ってるんですよね。割を食ってる人と向き合わずに新たな話をしても、「いやそれじゃねーから」となってしまう。これが辛いところです。

武内
コミュニティと向き合うことって、コミュニティのリクエスト全てに応えることではないですからね。コミュニティに向けた説明も、明確に意思を持ってやられてますよね。

香城
そうですね。ある時期から、今の環境で一番使われているデッキはコレなど、ゲームの中のデータを明確に開示するようになりました。その反響がネガティブだったとしても、見せることに意味がある。解決に向けて一緒に議論することが重要だと考えています。

武内
取り組んでることが、もはや経営ですよね(笑)

香城
ユーザーが、僕らと同等にゲームを考えてくれていると信じているからこそです。

いまちょうどやっているリアルイベントで、イベント累計参加者が5万人を越えたんです。普通に生きていたら、5万人のユーザーと直接会ったり、お互い知り合いになったりすることってないと思います。このあいだまで高校生だったのに、もう働いててNISAの話とかしてんの、なんて(笑) だからある種、そちらに引っ張られちゃっているところもあると思います。人生を見ているし、生活の様子もわかっているので。結果としてその感覚が、10年導いてくれたのかと思います。

一貫した「オセロニアンファースト」という価値観

武内
2016年初期も今も、チームで共通した価値観を持てているように感じます。その要因は何だと思いますか?

香城
新しく入った人から見ると、わけがわからないことをやっているチームだと思うんですよね。リアイベなんて意味ないだろ、とか。それに対して今まで10年間、平気でいろんなスタッフを職種関係なくリアイベに連れていくようにしてます。自分が作っているコンテンツをこういう風に受け取ってるんだ、と垣間見て、みな使命感を持って変えるようになります。これやったらあの人たちがイヤかも、と感じられるようになるべく、イベント参加を促しています。

また、オセロニアンファーストという、オセロニアを通じて人間関係を作った人たちの意見を必ず優先するというチーム方針を持っています。意思決定や障害対応の様子を見ると、本当にオセロニアンファーストなチームだと言えるようになっています。結果として、オセロニアンファーストな人が重要なポジションに就いていっています。

武内
最後に、今後の展望をお聞かせいただきたいです。

香城
一つは2026年2月7日の10周年イベント、「オセロニアンの祭典 10th anniversary」があるので、ソシャゲ史に残る伝説回にしたい。それこそが、10年間コミュニティに付き合ってきてくれた人たちへの恩返しだと思っています。オセロニアを応援してきて良かったと思えるような一日にしたいです。ただ、まだまだオセロニアは続いていきます。11年目、12年目も進化していきますが、ずっとオセロニアンファーストでコミュニティを見続けることが、果たしてゲームという事業に何をもたらすのか。僕がトップランナーを走っている中、どんな結末をもたらすのか、僕自身も楽しみになっています。

武内
ある種興味でもありつつ、腹をくくっているということですね。今回も非常に興味深いお話ありがとうございました!

NAVICUS Inc.

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