社内の情報が広報に集まらない。集まっても、どこに出せばいいのかわからない。事業や拠点が多い企業ほど、この悩みは深くなります。

日比谷花壇は、「すべての明日に、はなやぎを。」というコーポレートメッセージのもと、全国での店舗展開やフラワーギフトの企画・販売、お花のサブスクリプションサービス「ハナノヒ」の運営といったリテール事業、そしてウエディング事業、葬儀事業、法人事業、地域創生事業など、幅広く事業を展開する企業です。その全社の情報を、広報室2名が集約して、社外へXなどを通して発信しています。結果として、社員から「他の事業の動きを知りたい」と聞かれたときに「Xを見てね」と答えられる状態が生まれているといいます。本対談では、同社広報室の中村友美氏をお迎えし、情報をどう集め、何を基準に発信し、どんな言葉で届けているのかを伺いました。

日比谷花壇の公式Xは、事業を横断して会社の取り組みを発信するアカウントです。広報室2名という体制で、素材を提供してもらう社内の関係づくり、プレスリリースとの使い分け、誰にでも伝わる表現への翻訳という3つの実践が重ねられています。

・情報が集まる関係を、日常のなかでつくる
広報はひとりでは何も完結できない部署であり、ネタを作る部署と素材を提供する部署があって初めて発信が成り立つと語られています。月1回の会議のような仕組みだけでは関係は作れず、出社した日にできるだけ人と話すことを積み重ねているといいます。

・プレスリリースとXは、上下ではなく役割の違い
プレスリリースはメディアに向けた発表、Xは生活者に直接届ける場所と位置づけられています。どちらも会社としての公式な発信であり、届ける相手と速さの違いによって使い分けられています。

・難しいテーマこそ、言葉を選び直す
サステナビリティのように全事業に関わるテーマは、横文字が多く飛ばされがちになるため、興味を持ってもらえる形に噛み砕いて発信することが課題として挙げられています。

・社外向けの発信が、社内の情報源になる
誰にでも伝わる表現で選別された情報がXに出ているため、他事業の動きを知りたい社員に「Xを見てね」と案内できる状態になっています。

プロフィール

中村 友美

株式会社日比谷花壇 広報室。個人顧客向けのプロモーション企画や複数の店舗勤務を経て、現職。プレスリリースの配信と公式SNSの運用を担当し、季節の花や飾り方、贈り方の情報も発信している。地域の小学校と連携した「花育」活動も担当。

富田 明日菜

株式会社NAVICUS コミュニティマネージャー Instagramメディアマスター。前職はトリマーという異色の経歴を持ち、未経験からSNSマーケティングの世界へ転身。現在は企業のファンコミュニティ形成やInstagram運用の戦略立案・支援に携わる。

発信の対象:ひとつのXアカウントで、どれだけの事業を扱っているのか

NAVICUS 富田(以下、富田)
本日はよろしくお願いします。日比谷花壇さんの公式Xを拝見していると、事業を横断していろいろな話題が出てくる印象があります。まず、どれくらいの事業をお持ちなのか教えていただけますか。

日比谷花壇 中村(以下、中村)
よろしくお願いします。お客様からの認知度が一番高いのは、店舗とオンラインショップのリテール事業ですね。それからウエディング。SNSでお客様とコミュニケーションを取っていると、「結婚式がきっかけで日比谷花壇を知った」という方が、私が思っていた以上に多いんです。あとはコロナ禍の少し前から始まっているお花のサブスクリプションサービスの「ハナノヒ」。この3つが、一番お客様になじみの深い事業です。

富田
一方で、あまり知られていない事業もあるのでしょうか。

中村
はい。法人向けに空間装飾の事業がありまして、オフィスや病院、介護施設、商業施設などの空間を花と緑で彩ります。植物が身近にあると人のウェルネスに寄与すると言われているので、社員のエンゲージメント向上を目的に導入される企業さんも多いです。

富田
ほかには、どのような事業があるのでしょうか。

中村
ライセンス事業ですね。花のイラストやグラフィック素材を、アパレルや文具、食品メーカーなど様々な企業さんに提供しています。ポイントは、普段お花を活けているフローリストが絵を描いていることなんです。

富田
フローリストの方が、絵を。

中村
もともとウエディングで、提案画像を簡単に作れなかった時代は、全部手描きでデザイン画を起こしてイメージのすり合わせをしていたんです。だからフローリストには絵を描く技術が必要だった。その能力を別の事業に活かしたのがライセンス事業なんです。
あと、一番驚かれるのが地域創生事業です。横須賀市の長井海の手公園ソレイユの丘をはじめ、全国の公共施設の指定管理を受託していて、グループ会社の管理施設も含めると85案件、1200施設ほどになります。

富田
それだけの事業をひとつのアカウントで扱うのは、大変ではないでしょうか。

中村
発信する材料自体には困っていないんです。むしろ社内に素材はたくさんあって。ただ、それをどう集めるかというところに、広報の仕事の大半があると思っています。

情報の集約:全社の情報は、どうやって広報室に集まるのか

富田
素材が豊富にあるというのは、広報として大きな強みですよね。

中村
ただ、広報が撮影している写真ではないので、各部署やプロジェクトの人が撮ったものを提供してもらえる関係づくりは、常にしています。広報ってひとりでは何も完結できない部署だと思っています。発信のネタや素材を提供してくれるそれぞれの部署があって、私たちはそれを会社の代表として発信しているわけですから。

富田
関係性を良くするために、どのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか。

中村
こうすればいい、という法則はなくて、やっぱり人と人なので、まめにコミュニケーションを取る以外ないかなと思っています。会社に来た日は、できるだけいろいろな人と話すようにする。仕事に関係ない話もしますし、そこから「そういえばあれどうなった」につながることもありますし。

富田
仕組みとしての場も設けられているのでしょうか。

中村
各事業部に広報担当がいて、月1回オンラインで集まる会議はあるんです。前月のプレスリリースの共有やフィードバックをしています。ただ、正直それだけでは関係は作れない。会議のために資料を作らなきゃいけない、という関係性になってしまうので。

富田
会議で情報が上がってくる状態と、日常的に相談してもらえる状態は違いますよね。素材を出してもらえるかどうかは、後者で決まる気がします。

中村
そうですね。だから会議は会議で大事なんですけれど、それ以外の関係づくりのほうが重要だと思っています。

発信の判断:プレスリリースとXを、何で使い分けているのか

富田
広報には全部署の情報が集まってくると思うのですが、何をどこに出すかは、どのように判断されているのでしょうか。

中村
まず、プレスリリースとして出すかどうかという判断がひとつあります。基本的には、プレスリリースはメディアの方に向けた発表なので、社会的にニュースとして成立するかどうかが基準になりますし、各所への確認も含めて相応の準備が必要です。一方でSNSは、生活者の方に直接お届けする場所です。どちらも会社としての公式な発信ですが、届ける相手も速さも違うので、ニュースとしての発表にはならないけれど、会社の取り組みとして知っていただきたいことは、Xでお伝えしています。

富田
上下ではなく、役割が違うということですね。

中村
そうです。どちらか一方だけでは届けきれないので。

富田
Instagramは事業ごとにアカウントが分かれていると伺いました。そこもXとは役割が違うのでしょうか。

中村
そうですね。Instagramは店舗や事業ごとに運用されていて、それぞれの世界観を出す場所になっています。一方でXは、会社として横断的に発信できる場所です。事業をまたいだ取り組みを出すという意味では、今はXがその役割を担っています。

言葉の選び方:難しいテーマを、どう届く言葉にしているのか

富田
Xで発信される際は、どのような書き方を心がけていらっしゃいますか。

中村
誰にでも伝わる表現で、短い文章で書くことですね。何と何のコラボで、いつ、どこで、こういう商品が発売されます、という感じで出しています。

富田
事業によっては、簡単には短くできないテーマもありそうです。

中村
サステナビリティの取り組みがまさにそうで。これはどこかの事業がやるものではなくて、会社全体、全部の事業についてのものなんです。ただ、この話って難しくなりがちで、横文字が多かったり、アルファベット3文字が多かったり。興味がある方にはいいのかもしれませんが、そうでもない方が見ると面白くない、飛ばされがちなコンテンツになってしまう。それをうまく噛み砕いて、「こんなことをやってるんだ」と興味を持ってもらえる形で発信したいと考えています。

富田
サイトに載せている記事をSNSにそのまま持ってきても、おそらく読まれないですよね。皆さんが興味のある話の中に少し盛り込むなど、とっかかりを作る必要はありそうだなと感じます。

中村
そうなんですよね。結局、SNSでもデジタルのプラットフォームを通じて人と話していることに変わりはないので。対面だと1対1が基本ですけど、SNSは1対Nで、それでも個人の方と話している。だから相手に対して失礼がないか、この言葉を別の方向から捉えられないか、というのはすごく考えて投稿しています。

富田
顔が見えないと、つい打ち込んでいるだけのように思ってしまいますが、発信した先には生身の人がいて、そこで初めて投稿がコミュニケーションとして成り立つ。

中村
キャンペーンも同じです。フォローのきっかけはキャンペーンかもしれないけれど、そこから花を飾ってみることにつながる可能性もある。だから応募してくださる方も、ひとりの人だなと捉えています。うちの会社には「ゆりかごから墓場まで」という言葉があって、ご出産おめでとうから、最後のありがとうまで、花と緑でお客様に寄り添いたいという会社なんです。そう考えると、一度きりのご縁ということはないんですよね。

情報の共有:なぜ社内からも「Xを見てね」と言えるのか

富田
ここまでは社外に向けた発信として伺ってきましたが、そうして選び抜かれた情報は、社内の方にとっても価値がありそうです。実際、社内の出せる情報は、ほぼXに出ている状態なんですよね。

中村
そうですね。私たちはたまたまそういう部署なので、全部署が何をやっているか大まかには知っているという立ち位置なんですけれど、各事業部の人と話すと、当たり前ですが自分の事業のことは詳しくても、他の事業が何をやっているか全然知らなかった、という方が多いんです。

富田
そうすると「他の事業の動きをどうやってキャッチアップすればいいですか」と聞かれることもありそうです。

中村
聞かれます。それに対しては「Xを見てね」とお答えしているんですよ。前にお話しした通り、プレスリリースはもちろんですが、Xに出ているものは、会社として世の中に伝えたいことを出していますし、誰にでも伝わる表現で書いているので。だから会社のことを知りたいという方には、まずX、とお伝えしています。

富田
それは大きいですね。社外に向けて整理した情報が、そのまま社内の共通言語になっている。社外向けにきちんと翻訳したからこそ、社内でも読めるものになっているんだと思います。

中村
結果的にそうなっていますね。ただ、店舗で働く方まで届いているかというと、また別の話かもしれません。

富田
本社と店舗で情報の格差が生まれてしまう、というのは多くの企業に共通する悩みだと思います。逆に、店舗側から本社へ情報が届く経路はあるのでしょうか。

中村
店頭スタッフがそれぞれ社用アカウントでInstagramを運用しているので、私もスタッフのアカウントはよく見ています。本社にいるとリアルタイムの状況はなかなかわからないので。休館日やイベントの情報をこまめに出しているスタッフに、どうしてそこまでと聞いたら、知らせておかないとお客様に無駄足を運ばせてしまうから、と言っていました。

富田
NAVICUSには「End User First」という行動指針があって、判断に迷ったらエンドユーザーにとってどう貢献できるかで決める、という考え方を大事にしているんです。今のお話は、まさにそれが現場で自然に起きている状態だなと思って伺っていました。

中村
そういう感覚は、店舗にいると自然と出てくるものかもしれないですね。

今後の展望:GREEN×EXPO 2027に向けて何を発信していくのか

富田
最後に、今後取り組みたいことをお聞かせください。

中村
2027年国際園芸博覧会、GREEN×EXPO 2027への出展が決まっていまして、2027年3月の開幕まで1年を切りました。グループとして会場整備の造園工事からグリーンショップの運営、屋内展示まで参画するので、まさに全事業が関わる取り組みなんです。開幕までのプロセスを継続的に発信していけたらと思っています。

富田
全事業が関わる取り組みということは、まさにXが得意とするテーマですよね。しかも準備段階から発信していくと、後から知った方が「こんなふうに準備していたんだ」と遡って読めるので、ファンになっていただきやすいんです。

中村
そうなんです。1回のお知らせで終わらせず、過程をどう積み重ねて見せていくかを、今きちんと考えたいと思っています。

富田
開幕が楽しみですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

中村
ありがとうございました。

まとめ:情報を集める仕組みと、届ける言葉の両方が要る

日比谷花壇の事例が示しているのは、事業が多い企業の発信は、アカウントの設計だけでは解決しないということです。全社の情報が広報に集まる関係が日常のなかで作られていること、プレスリリースとSNSが役割で使い分けられていること、そして難しいテーマが誰にでも伝わる言葉に翻訳されていること。この3つがそろって初めて、ひとつのアカウントが会社の姿を伝える場所になります。

社外に向けて丁寧に翻訳された情報が、結果として社内の共通言語にもなる。「Xを見てね」と言える状態は、その積み重ねの上に生まれています。

  • 事業をまたぐ取り組みを、どのアカウントでどう見せるかの役割設計
  • 広報に情報と素材が集まる、社内の連携体制づくり
  • 専門的なテーマを、生活者に届く言葉へ翻訳する発信設計

NAVICUSでは、複数の事業や拠点を持つ企業のSNS運用において、発信内容の設計から、社内で情報が集まる体制づくりまでを支援しています。

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