近年、テレビ業界では若年層の視聴習慣の変化もあり、動画配信サービス「TVer」の存在感が増しています。民放公式テレビ配信サービスとして8,500万以上のダウンロードを誇るTVerですが、その認知拡大を担う鍵の一つがSNSです。本対談では、TVerのコンテンツPR部でSNS統括を務める西村雄太氏をお迎えし、TVer公式SNSの戦略や“ファン起点”のコミュニケーション施策について伺いました。テレビ番組を扱いながら「TVerらしさ」を醸成する工夫や、SNS上の会話量(SOV: Share Of Voice)を増やすことで広がるファンの居場所づくりについて、NAVICUS代表・武内一矢との対談形式で深掘りします。

プロフィール

西村 雄太

株式会社TVer コンテンツPR部 SNS統括。2018年にADKへ入社しテレビ領域のメディア事業に従事。2023年より株式会社TVerに出向してマーケティング業務を担当。2024年のコンテンツPR部発足と同時にSNS戦略の本格立ち上げをリードし、現在はTVer公式SNS全般の運用を統括する。

武内 一矢

株式会社NAVICUS 代表取締役。Q&Aコミュニティ運営企業、株式会社ディー・エヌ・エーでの新規事業立ち上げを経て2018年にNAVICUSを設立。SNSマーケティングやコミュニティ運営支援で300社超の企業を支援。テレビ局のSNS支援も多数手掛ける。

NAVICUS 武内(以下、武内):それでは、本日はどうぞよろしくお願いいたします!

株式会社TVer 西村様(以下、西村):よろしくお願いいたします。本日は機会をいただきありがとうございます。

TVer公式SNSの運用体制と“KPI = SOV”とは?

武内
まず、TVer公式SNSの運用体制について教えてください。現在のアカウント運用体制と、目的・KPIを解説いただきたいです。

西村
TVerでは現在、X(旧Twitter)に5つ、その他にLINEやInstagramなど合計約10の公式アカウントを運用しています。テレビ番組の告知や配信情報を発信するアカウント(例:新着情報の「TVer_info」)に加え、ジャンル別にオフィシャル、スポーツ、アニメ、推し活応援……と複数に分けて運用しています。投稿数は合計で、月あたり数千件規模になります。目的として共通しているのは、「TVer」というワードの認知度を高めること。私たちはSNS上での発話量(Mention数)こそ認知に直結すると考えており、KPIはShare Of Voice(SOV)、つまり競合他社も含めた中で「TVer」に言及される量を増やすことに重きを置いています。

武内
配信するテレビ番組の情報を投稿するだけでなく、TVerさん独自の切り口の投稿にも力を入れていますよね。SOVを高めるために取り組んでいる工夫についても、教えていただけますか。

西村
おっしゃる通り、TVerの公式SNSでは「TVerらしさ」を打ち出すオリジナル投稿にも注力しています。民放各局の番組コンテンツを扱う都合上、番組告知など投稿しなければならない情報が大量にあります。しかしそれだけではユーザーの心に残りにくく、戦略に基づいた企画投稿を織り交ぜることでTVer独自の存在感を出すよう心がけています。たとえば、TVer内のお気に入り登録数上位の番組を紹介するシリーズや、特定のテーマでユーザー参加を促す投稿(「平成生まれ大集合!」など)を企画し、SNS上で盛り上がりを作ろうと工夫しています。

実際、TVerとXの相性は非常に良いと感じています。TVerには「コメント機能」が無いぶん、Xがその役割を担っており、視聴者が番組への感想を自由に発信できる場になっています。公式SNSがユーザー同士・ユーザーと番組をつなぐハブとなることで、結果的に「TVer」というワードの言及量=SOVが増え、ひいては視聴数の拡大につながると考えています。

2024年からSNS強化に本腰を入れ始めた背景は?

武内
TVer公式SNSは、2024年から本格的に力を入れ始めたとうかがいました。その背景にはどのような課題や業界環境の変化があったのでしょうか?

西村
背景として大きく2点あります。1つ目は、事業環境としてSNSに注力しない会社はもはや存在しないという業界全体の流れです。特に消費者向け(toC)サービスである以上、若年層を含む幅広い層との接点を持つにはSNSは欠かせません。実際、TVerとしても「若年層へのリーチ拡大」が課題にあり、それがSNSに力を入れている理由の一つです。

2つ目は、社内リソース配分上の優先度の変化です。TVerはテレビ番組を配信するプラットフォームですが、自社でオリジナルの番組コンテンツを制作しているわけではなく、コンテンツの著作権も各放送局にあります。そのためサービス初期の頃は、いかに配信できる番組数を増やすかや、広告事業を伸ばすといったプラットフォーム基盤の拡大に注力していて、SNSは後回しだったんですね。しかし昨今のテレビ視聴率の低下もあり、「どうやって番組を観てもらうか」という課題がよりシビアになってきました。SNSで話題化することが番組視聴の後押しになるケースも増えています。

武内
私もテレビ局様のSNS運用をご支援することが多いのですが、その中でよくあるのが「SNSでバズった頃には番組放送が終わっている」というケースです。そうした場合でも、見逃し配信としてTVerに誘導できれば視聴機会を作れるという点は非常に有効だと感じています。

西村
そういった背景から、社内でもSNSの重要性が再認識されてきました。こうした流れで2024年から本腰を入れて体制を整え、私がSNS統括として本格的に取り組みをリードすることになりました。

ジャンルごとにアカウントを分けた狙いとは?

武内
先ほどアカウントをジャンル別に細分化しているとおっしゃいましたが、複数アカウントに分けたのはなぜでしょうか?ファンダム(ファンのコミュニティ)を形成する狙いがあるのでしょうか。

西村
はい、ファン層ごとに最適なコミュニケーションをするためにジャンル別でアカウントを運用しています。TVer公式SNSはもともと、X上に5アカウントある状態で私が着任しましたが、当初それらはジャンル分けされたものではなく場当たり的に作られたものでした。そこで2024年以降に「スポーツ」「アニメ」「推し活応援」といったジャンル軸で再編成し、それぞれのファンコミュニティに寄り添った発信をするようにしたんです。たとえばスポーツやアニメは、一般情報アカウント(TVer_info)だけではカバーしきれない濃いファン層がいますので、専用アカウントで熱量の高い情報交換の場を作っています。

武内
推し活応援アカウント(TVer推し活)は特にファン文化への理解が不可欠ですよね。運用にはかなり気を遣うのではないですか? 下手に運用すると炎上リスクもありそうですが。

西村
まさに、その文化的なリテラシーが重要です。推し活応援アカウントについては、担当者自身が熱心な推し活経験者であることが理想的ですね。実は当初、このアカウントも含め複数のSNSを1人の担当者が運用していたのですが、現在はアカウントごとに専任のリーダーを置き体制を強化しています。推し活応援アカウントの現担当者は自らも推し活をしているメンバーで、ファン心理をよく理解しています。運用にあたっては、投稿ネタを考える際に既存ファンのSNS上の声を事前にしっかりリサーチし、「ファン目線で共感できるか?」を軸に企画しています。いわばファンの声を傾聴し、当事者意識を持って発信するイメージですね。おかげさまで、大きなトラブルなく良い反応をいただけています。

武内
アカウントごとに担当を決める基準も興味深いですね。スポーツアカウントについてはいかがでしょう?

西村
スポーツに関してはユニークで、必ずしも担当者自身が熱烈なスポーツファンである必要はないと考えました。そこで社外の専門会社(スポーツライターが所属する編集プロダクション)に運用を委託しています。個人の好き嫌いよりも、スポーツ特有の文脈や専門性を理解したプロに任せたほうが質の高い情報発信ができますから。このようにジャンルごとに適した体制を組むことで、各コミュニティのファンに響く発信を心がけています。

NAVICUSの支援で広がる施策の幅

武内
現在、NAVICUSもTVerさんのSNS運用をお手伝いさせていただいています。具体的にNAVICUSからどのような支援を受けているのか、ご紹介いただけますか。

西村
NAVICUSさんには2024年から本格的にご協力いただいていますね。主な支援内容は大きく3つあります。

1つ目はSNS戦略のアドバイザリーです。毎月、X(5アカウント)とInstagramそれぞれの運用レポートを50~70ページ規模で作成してもらい、数値分析や改善提案をいただいています。レポートや相談を通じて、仮説検証を繰り返しPDCAを回す部分で大きく貢献いただいています。

2つ目はコンテンツ制作の支援です。先ほどお話ししたオリジナル企画投稿について、NAVICUSさんにXの一部アカウントの投稿制作をお願いしています。具体的には5つあるXアカウントのうち3アカウントで、月に各数件ずつ、合計12投稿前後をNAVICUSさんに企画・クリエイティブ制作いただいています。Instagramでも、新規立ち上げの際に戦略設計から携わってもらい、投稿クリエイティブを数件制作いただいています。

3つ目はキャンペーン運営のサポートです。毎月2件ほど実施している簡易なキャンペーン(フォロー&リポストで応募、など)について、キャンペーン規約の作成や投稿クリエイティブ制作、当選者抽選やDM対応などをお任せしています。企画自体は弊社側で立案するケースが多いですが、その実行フローをスムーズに進めてもらっている形です。また、大型キャンペーン時のSNS広告運用もお願いしています。こうした定常業務に加え、急遽「この投稿をもう1本作ってほしい」「Xで作った投稿をInstagram用にリサイズしてほしい」といった単発の依頼にも柔軟に対応いただいており、大変助かっています。

武内
ありがとうございます。NAVICUSの支援によって、SNS施策の幅が広がったり変化した点はありますか?

西村
そうですね、一番は投稿の幅が広がった点です。TVer公式SNSは、扱うコンテンツの権利上、出せる情報や素材に制約がある中で運用しています。そうした限られた条件の中でも「いろんな切り口で攻めましょう」と提案してもらえたのが大きかったですね。NAVICUSさん発案の企画投稿も多く生まれましたし、「こういう角度からなら番組素材を使わずにユーザー参加型の投稿ができますよ」など新しいアイデアを形にしていただきました。投稿内容のブラッシュアップにあたっても、何度も修正対応いただく柔軟さで助かっています。また、担当者の皆さんがTVerというサービスへの理解が非常に深いと感じています。「TVerならではの強み・弱み」を踏まえたアドバイスを常にくださるので心強いですね。

前半では、SOVを軸に据えたTVer独自のSNS戦略と、その実行を支える体制づくりを掘り下げてきました。この戦略が具体的にどんな成果を生み、ファンをどのように動かしてきたのか。後半では事例を深掘りしていきます。

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