前編では、株式会社セガのプロデューサー・中村氏のキャリアの原点と、リアルイベントで体感した「DAU 1」の重み、コミュニティ施策が前提条件となった市場の構造変化を伺いました。後編では、NAVICUS代表・武内一矢が、企画段階から「フック」を仕込む思想、公式アカウントとプロデューサー個人アカウントによる「2枚看板論」、そして属人的な発信に”魂”を宿す条件まで、より実践的なテーマを掘り下げます。

対談のサマリー:企画段階のフック設計と、誠実な属人発信がヒットを左右する

本対談の後編では、コミュニティ施策が一般化した今、明暗を分ける「企画段階のフック設計」「公式とプロデューサーの2枚看板」「属人発信に魂を宿す条件」が語られています。

  • 企画段階から「フック」を仕込めているか
    プロモーションは興味の「引っ掛かり」がないと無駄打ちになりやすく、『コトダマン』はキャラ名やボイス実装をユーザー参加で決める「余白」を企画段階から仕込み、お膳立てされない生の「事件性」を生み出しました。
  • 公式とプロデューサーの「2枚看板」が効く理由
    信頼性ゆえ拡散が生まれにくい公式アカウントと、リアリティと「事件性」で読まれやすいプロデューサー個人アカウントを両輪で動かすほうが、公式単体よりマーケティング効果が高いと語られています。
  • 発信に“魂”が宿る条件と向き不向き
    発信者が「すべてがわかっている人」として偽りなく語れること、SNS担当が隣に座るほどの距離感、批判を「役割への意見」と受け止める姿勢が、属人発信を続ける条件だと語られています。

プロフィール

中村 たいら

株式会社セガ プロデューサー。2003年にセガへ新卒入社し、コンシューマタイトルのプランナーとしてキャリアをスタート。その後バンダイへ移り、リアルカードとPCオンラインゲームを融合した『プロ野球オーナーズリーグ』を企画しヒットに導く。セガネットワークス(現セガ)に転じてからは『サカつくシュート』『モンスターギア』『コトダマン』などのプロデューサーを歴任。ミクシィでの『コトダマン』運営を経て、現在は再びセガで『サカつく』シリーズを手掛けている。

武内 一矢

株式会社NAVICUS 代表取締役。早稲田大学卒業後、コミュニティサービス運営のITベンチャーを経て、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。SNSマーケチームの立ち上げを担う。2018年、コミュニティ・SNSマーケティング支援を行う株式会社NAVICUSを設立、代表取締役に就任。300社以上の企業・自治体のSNS戦略立案・運用に携わる。

企画段階から「フック」を仕込めているか:『コトダマン』はなぜ手に取られたのか?

NAVICUS 武内(以下、武内)
コミュニティ施策が標準化する中で、成功するタイトルと苦戦するタイトルの明暗を分ける要因はどこにあるのでしょうか。私たちは、コミュニティやユーザーの巻き込みが「最初からUX(ユーザー体験)の設計図に組み込まれているか」、それとも「ゲーム完成後に後付けのプロモーションとして考えているか」の差が大きいと感じています。中村さんは、どのタイミングからファンの巻き込みを考え始めますか?

セガ 中村(以下、中村)
私は持論として、企画段階の時点で「このタイトルがどうユーザーに手に取られ、どうヒットしていくか」というプロモーションの絵まで描けていなければならない、と考えています。これは組織やメンバーにも一貫して共有してきました。

プロモーションにおいて、ユーザーの興味を惹きつける「フック(引っ掛かり)」がない施策は、何をどうしても無駄打ちになりやすいんです。「ただの面白いゲームです」という訴求では、どれだけTVCMやネット広告を出してもユーザーに届きません。IP(知的財産)はもっともわかりやすいフックですが、それ以外にも、声優陣の起用やこれまでにない特異な取り組みなど、ゲームの構造自体にどれだけフックを仕込めるかが鍵になります。

ゲームが完成する直前になってからマーケティング担当が配属され、タイトルの深い文脈を理解しないまま後付けでフックを探すケースをよく見かけますが、それではやはり苦戦してしまいますよね。

武内
そのフックの設計で、特に手応えのあった事例を教えていただけますか?

中村
やはり『コトダマン』の立ち上げ時ですね。当時はまだ他社がそのようなアプローチをしていなかった時代に、公式アカウントがあれだけ自由に振る舞い、「ユーザーと一緒にゲームを作っていく」というスタンスを前面に出したことは非常に斬新でした。

具体的には、キャラクターの名前やデザインをユーザー投票で決定したり、ボイスの実装を「〇万リポスト達成で実装」としたりする施策を、あらかじめ企画段階からシステムに組み込んでいました。つまり、ユーザーが入り込める「余白」を最初から残していたんです。これが、企業側にお膳立てされたキャンペーンではない、生の「事件性」としてユーザーに新鮮に映ったのだと思います。

最近ではマクドナルドさんなどのマーケティングが非常に上手ですが、「用意されていない自然な事件性」を、炎上リスクをコントロールしながらどう生み出していくか。これは現代のマーケティングにおいて、もっとも難易度が高く、かつ効果的なテクニックだと感じます。

武内
ユーザー側に関わり代(参加する余白)があると、当事者性が一気に増していきますよね。コミュニティマーケティングの大原則だと思います。

「公式」と「プロデューサー」の2枚看板論:SNSでなぜ両輪が効くのか?

中村
直近で『サカつく』のマーケティングに携わって改めて実感したのですが、SNSマーケティングにおいては、ブランドの「公式アカウント」と「プロデューサー個人のアカウント」による「2枚看板」の体制が最強のシナジーを生むと考えています。

武内
それは非常に興味深い視点ですね。具体的にはどのような役割分担になるのでしょうか?

中村
公式アカウントは、運営期間が長くなるほど、ブランドの信頼性を守るためにハチャメチャな運用がしづらくなります。ユーザー側も「公式は建前(正確なアナウンス)を発信するものだ」と理解しているので、インフォメーションとしては読まれても、そこから自発的なバズや拡散は生まれにくい性質があります。

一方で、プロデューサー個人の言葉には生々しいリアリティがあり、発言そのものに最初からある種の「事件性」が含まれています。だからこそユーザーに読まれやすく、リポストもされやすい。公式という確固たる基盤と、プロデューサーという個人の熱量の両輪で動かしていくほうが、公式単体で運用するよりも明らかにマーケティング効果が高くなります。

発信に“魂”が宿る条件:プロデューサー個人の発信は何で決まるのか?

武内
企業の公式アカウントの運用ノウハウは業界内に蓄積されてきましたが、プロデューサー個人が発信するアカウントのノウハウはまだ世の中に多くありません。もし他のプロデューサーからアカウント運用について相談されたら、何が成功の鍵だと伝えますか?

中村
プロデューサーとは、ゲームの開発責任者であり、中身を誰よりも熟知し、同時にマーケティングの視点も持っている「すべてがわかっている人間」です。そのため、自身の言葉で「すべてがわかっている人間として」嘘偽りなく発信することが何より重要です。

これをもし、マーケティング担当者がプロデューサーのアカウントを「代行」して回していると、開発側にヒアリングした内容を表面的にまとめただけのアナウンスになりがちです。そうすると発信からリアリティが失われ、ユーザーが本当に求めている「魂の入った情報」にはなりません。ユーザーにはその違和感がすぐに見抜かれてしまいます。

武内
リアリティの欠如はファンに見透かされてしまいますよね。私がDeNAにいた時代も、コミュニティ施策が成功しているタイトルは、コミュニティ担当やSNSの運用者が、プロデューサーの物理的に「すぐ隣の席」に座っていました(笑)。

すべての会議に同席し、その場でパッと意見を交わせるほどツーカーの距離感にいないと、プロデューサーの言葉のニュアンスや感情の機微までを汲み取った熱量のある発信は組織として生み出せないと感じています。

中村
その体制の有無は、発信の質に決定的な差を生みますよね。

武内
プロデューサー個人の発信において、個人の「向き不向き」についてはどう思われますか?

中村
それは明確にあると思います。

武内
ユーザーの「感情」に向き合える人なのか、それとも「数字の傾向」だけを見ている人なのか、という違いは大きそうですね。ユーザーの気持ちを受け止めるスタンスがないと、心に響く発信にはなりにくい気がします。

中村
ただ、向き合う上で難しいのが、SNSには批判やネガティブな意見も日常的に飛び交うという点です。これを真面目に受け止めすぎてしまうと、発信者側のメンタルが保てなくなってしまいます。

武内
心がやられてしまう担当者は、業界を問わず非常に多いですね。

中村
そうなんです。かと言って、ユーザーの声を完全に無視して受け流してしまうと、今度は誰の心にも響かない無機質な発信になってしまう。この距離感の「さじ加減」は、経験とセンスが求められる非常に難しい部分です。

武内
真面目で責任感が強い人ほど、SNSの声に潰されてしまいがちです。ユーザーからのフィードバックは製品の改善点として真摯に受け止めつつ、「プロデューサー個人への攻撃」と捉えるのではなく、「役割としてのプロデューサーに対する意見」であると、一歩引いて客観的に受け止められるマインドセットが、運用を継続する一つのポイントかもしれません。

中村
本当におっしゃる通りですね。特にリリース直前などは、プロデューサーも命がけで追い込まれているので、普段なら流せるような批判的な声に過剰に反応してしまったり、精神的な余裕をなくしてしまったりしがちです。それらのリスクを含めて、SNSとどう上手く付き合っていくか。仕事としてコントロールしきる難しさはありますが、現在の国内スマホゲーム市場を勝ち抜いていくためには、こうした属人的でリアルな発信が非常に強力な武器になるのも事実です。

武内
ゲーム業界を代表するような著名なプロデューサーの中には、どこまでが個人の感情で、どこからが役割なのかわからないレベルで、IP(タイトル)そのものとして生ききっていらっしゃるような凄い方もいますよね(笑)。

中村
本当に尊敬します。

武内
たとえば「逆転オセロニア」のけいじぇいプロデューサーも実際にお会いしても表裏が一切なく、コミュニケーションの一貫性が凄まじいですよね。

これからの展望:コミュニティ施策が当たり前になった今、何を積み重ねるか?

武内
最後に、これからの展望についてもお聞かせいただけますか?

中村
結局のところゲームというコンテンツは、作って売って終わりではなく、「ユーザーの皆さんとどれだけ長く付き合っていけるか」がすべてだと改めて思っています。コミュニティ施策が一般化した今だからこそ、小手先のテクニックに走るのではなく、企画の初期段階からユーザーの手元に届くまでの導線を設計しきること。そして、公式とプロデューサーの両輪で、誠実な発信を愚直に続けていくこと。このゲームマーケティングの「基本」を、改めて丁寧に、高い精度で積み重ねていきたいです。

武内
本質的なお話ですね。今日は中村さんの具体的なご経験を交えながら、これからのゲームマーケティングやSNSコミュニケーションに携わるビジネスパーソンにとって、非常に示唆に富むお話をたくさんお聞きできました。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

中村
こちらこそ、ありがとうございました。

まとめ:ヒットの再現性は「企画段階のフック」と「誠実な属人発信」に宿る

後編では、コミュニティ施策が一般化した今、明暗を分けるのは小手先のテクニックではなく、企画初期からユーザーが入り込む余白(フック)を設計し、公式とプロデューサーの両輪で誠実な発信を続けられるか、というお話を伺いました。

  • プロモーションは「フック(引っ掛かり)」がないと無駄打ちになりやすい。『コトダマン』はユーザーが入り込む「余白」を企画段階からシステムに組み込み、用意されていない「事件性」を生んだ
  • 公式アカウントは信頼性ゆえ拡散しにくく、プロデューサー個人の言葉はリアリティと「事件性」で読まれやすい。両輪で動かすほうがマーケティング効果が高い
  • 属人的な発信に魂を宿すには、発信者が「すべてがわかっている人」として語れること、そして批判を「個人攻撃」ではなく「役割への意見」と受け止められる距離感が要る

NAVICUS Inc.

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