日本向けの公式アカウントを開設し、グローバルで発信している情報を日本語に翻訳して届ける。フォロワーも少しずつ増えている。それでも、投稿へのリプライはほとんどなく、ユーザー同士の会話も生まれない。海外発のゲーム・IPを日本で展開する企業から、NAVICUSにはこうしたご相談をいただくことがあります。
もちろん、グローバルと情報やブランドイメージを統一することは重要です。一方で、日本のユーザーにとって公式SNSは、単なる「情報を受け取る場所」ではありません。「日本のユーザーをちゃんと見てくれているか」「自分たちの声を受け止めてくれる運営なのか」。その姿勢を感じ取る場所でもあります。
日本では、告知の内容だけでなく、言葉の選び方、不具合が起きたときの伝え方、ユーザーの盛り上がりへの反応など、一つひとつのコミュニケーションがタイトルへの信頼につながっていきます。そのため、グローバルの投稿を正しく日本語に翻訳するだけでは、情報は伝わっても、日本のファンとの関係まではつくれないことがあります。必要なのは、単なる翻訳ではなく、日本のユーザーがどう受け取り、どう反応し、どうすればタイトルをもっと好きになってくれるかまで考えたローカライズです。
本コラムでは、ゲーム・エンタメ特化チーム「ドゥ」のメンバー2名が、海外発タイトルを日本で展開する際に、公式SNSの立ち上げから運用までの段階で決めておきたいポイントを解説します。
要点まとめ
- 日本の公式アカウントは、告知の窓口であると同時に運営の姿勢が表れる場所になる
- 日本語化で終わらせず、ローカライズのなかのカルチャライズまで踏み込んで整える
- 初期に決めておきたいのは、告知体制・言葉づかいの方針・二次創作へのスタンスの3点
- 有事の対応可否と承認ラインは、平時のうちに日本側と本社で握っておく
- フォロワー数ではなく、返信や引用ポストといった会話の量を運用の手がかりにする
日本のユーザーは、公式アカウントの何を見ているのか
ドゥ ゲーム・エンタメDiv. コミュニティマネージャー 小林(以下、小林)
ご相談をいただくのは、海外パブリッシャー様の日本法人と、海外タイトルを国内で配信されている国内パブリッシャー様が中心です。どちらからも、だいたい同じことを言われるんですよね。「日本語アカウントは動いているのに、ユーザーさんの反応が薄い」と。
投稿の中身が間違っているわけではないんです。アップデート情報もキャンペーンの告知も、ちゃんと日本語になっている。それでも会話が生まれない、という状態ですね。
ドゥ ゲーム・エンタメDiv. ゼネラルマネージャー 弐狐(以下、弐狐)
見落とされやすいのは、日本のユーザーが公式アカウントに何を求めているか、という部分だと思います。日本だと、タイトルを遊ぶことと運営を応援することが、そのままつながりやすいんですよ。
だから投稿は、情報として見られると同時に、運営の姿勢としても見られている。アップデートの告知が遅い、不具合の説明がはっきりしない、リプライを送っても反応がない。そうなると「情報が足りない」ではなく「運営が見てくれていない」と受け取られてしまいます。
小林
クライアント様には、「日本のユーザーさんは、タイトルだけでなく運営も含めて応援してくださる方が多いんです」とお伝えしています。ここが伝わると、投稿1本ごとの考え方も変わってきますね。
弐狐
そのうえで、日本展開の最初に決めておきたいことが3つあります。
1つ目は告知の体制です。いつ、何が、どうなるのか。これを公式が先に出せる状態をつくっておく。
2つ目は言葉づかいの方針です。日本では、公式アカウントにキャラクター性や語り口を持たせて、ユーザーの反応に返していく運用が受け入れられやすい傾向があります。どこまで人格を出すのかは、先に決めておきたいところです。
3つ目は二次創作へのスタンス。どこまでが歓迎で、どこからが対象外なのかを、文字にしておきます。
小林
2つ目の言葉づかいは、ユーザーさんの安心感にも直結する部分です。日本語として不自然な投稿が続くと、「この運営に日本語は通じないのかもしれない」と思われてしまう。そうなると、感想を書いても、不具合を報告しても、どうせ読まれないだろう、と受け取られてしまうんですよね。読んで自然だと感じられる日本語であること自体が、話しかけてもらえる土台になります。
3つ目の二次創作も、日本だと特に大きいです。ファンアートやプレイ動画で愛着を深めていく方が多いので、公式の姿勢が見えないと、「これは投稿していいのかな」と迷わせてしまう。ガイドラインを整理して公開するだけでも、ファンの方は動きやすくなります。
日本語にするだけでは足りない——受け取られ方まで含めて整える
小林
最近いちばん多いのが、「グローバルアカウントの投稿を日本語に訳して流しているけれど、これで足りているのか」というご相談です。答えとしては、翻訳の精度の話ではないことがほとんどで、運営としての振る舞いが日本向けになっていない、というケースが多いですね。
弐狐
順番に見ていきましょうか。まず、会話が起きる場所が違います。日本はX(旧:Twitter)の存在感が大きくて、公式の告知もファン同士の会話も、だいたいここが軸になります。そこにYouTubeの公式生放送や、TikTok、Instagramリールのような短尺動画が組み合わさる。タイトルによってはLINEやDiscordも入ってきます。海外だとコミュニティの中心になりやすいDiscordやRedditは、日本ではコアファンの方が集まる場所としては機能しても、それだけで広がりをつくるのは難しいことが多いです。
小林
言葉づかいは、公式らしさを残しながら、タイムラインの空気に合わせていく作業になります。英語の投稿をそのまま訳すと、どうしても事務的で距離のある日本語になってしまうんですよね。かといって崩しすぎるとブランドが損なわれる。このさじ加減は、クライアント様と何度も話しながら決めています。
弐狐
次に情報の出し方です。アップデートの内容、メンテナンスの時間、不具合が起きているかどうかと、その対応方針。日本のユーザーは、こうした情報を公式から早く正確に受け取れることを重視する傾向があります。本社の承認を待っている間に告知が遅れると、その空白のあいだに憶測が広がってしまう。あとから正確な情報を出しても、いったん広がった解釈を戻すのは簡単ではありません。
小林
不具合やお詫びの伝え方にも、日本独自の型があります。何が起きたのか、原因はどこにあったのか、いつまでに何をするのか。この順番で説明し切ると、かえって信頼が深まることもあるんです。グローバル標準の短いアナウンス文を訳しただけだと、説明が足りないように見えてしまう場合がありますね。
弐狐
3つ目が二次創作との距離感です。日本ではファンアート、プレイ動画、同人活動と、創作を通じた楽しみ方が根づいています。権利の話が絡むので慎重に設計する必要はありますが、方針を決めないまま運用を続けると、ファンの創作意欲が行き場をなくしてしまう。
小林
私たちがよくお話しするのは、ローカライズのなかでも、カルチャライズと呼ばれる部分が肝心です、ということですね。
ローカライズというと、日本語に置き換えて、日本で問題なく使える形に整えるところまでを指すことが多いと思います。その内側に、日本の文化や感覚に合わせて中身そのものを調整する、カルチャライズという工程があるイメージです。
たとえば、英語だとユーモアとして成立する言い回しでも、日本のタイムラインに置くと、茶化しているように見えてしまうことがあります。そういう表現は、日本では言わないという判断をします。逆に、不具合のお詫びは、グローバル標準よりも丁寧に、経緯まで含めて説明したほうが受け入れられる。この積み重ねなんですよね。
弐狐
そうですね。文字面を正しく訳せていても、受け取られ方まで合っていないと届かない。会話が起きる場所、言葉づかい、告知の体制、二次創作の方針。この4つをひとつのセットとして、日本向けに組み直していく必要があります。
グローバル標準と日本市場の前提の違い
| 項目 | グローバル標準になりやすい前提 | 日本市場で求められやすい前提 |
|---|---|---|
| 会話が起きる場所 | Discord/Redditを核にしたコミュニティ運営 | Xを軸に、YouTube生放送や短尺動画を組み合わせる |
| 公式に期待される振る舞い | 開発チームとの距離の近さ、議論への参加 | 運営としての誠実さ、丁寧かつ親しみのある言葉づかい |
| 情報の出し方 | 必要な情報を簡潔に告知する | グローバル標準よりも丁寧に、経緯まで含めて説明する |
| 不具合・お詫びの伝え方 | 事実と対応を簡潔に伝える | 経緯・原因・対応方針まで順序立てて説明する |
| 二次創作との距離 | プラットフォーム上のUGC*が中心※User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ) | ファンアートや動画など創作を通じた参加が活発 |
| つまずきやすい点 | 直訳によって事務的な印象になる | 承認フローの遅れで告知に空白が生まれる |
ご相談が集中する3つの場面
小林
ご相談は、大きく3つの場面に分かれます。
1.立ち上げの初動
小林
1つ目は、「日本語アカウントを立ち上げることは決まったけれど、何から手をつければいいかわからない」という段階ですね。「日本ではXが重要だと聞いたが、何をどのくらいの頻度で投稿すればいいのか」「公式生放送はやったほうがいいのか」といったご質問をよくいただきます。
弐狐
投稿の本数や運用ツールは、あとからでも変えられます。先に固めたいのは、そのアカウントが日本のユーザーさんにとってどういう存在になるのかというところです。ここが決まらないまま走り出すと、タイムラインがグローバル告知の転載で埋まってしまう。日本語に訳された告知が流れてくるだけの場所になってしまうんですよね。想定するファン像と、日本語での話し方の方針。この2つは立ち上げ前に言葉にしておくことをおすすめします。
2.運用は続いているが、コアファンが育たない
小林
2つ目は、「フォロワーは増えているのに、コアファンが見えてこない」「海外での盛り上がりが日本に届いていない」というご相談です。この場合は、いまのアカウントの棚卸しから入ることが多いですね。
弐狐
数字だけを見るわけではありません。投稿ごとのエンゲージメント率に加えて、リプライや引用ポストにどんな言葉が並んでいるか、ファンの投稿がどのくらい生まれているかも合わせて確認します。
よく見つかる原因は、本社の運用方針を編集しないまま日本に持ち込んでいることです。日本語としての自然さ、投稿する時間帯、ユーザーの反応に返すかどうか。この3つを組み直すだけでも、数か月でタイムラインの空気は変わってきます。
3.不具合・お詫びの場面
小林
3つ目は、有事の対応です。日本展開では、平時の運用よりもここでつまずくケースが目立ちます。不具合が起きて、本社の確認を待っている間に日本語での説明が出せない。その時間にユーザーさんの不安が広がってしまう、という流れですね。
弐狐
効いてくるのは、有事の判断基準と承認ラインを、平時のうちに決めておくことです。どこまでを日本側の判断で発信できるのか、どこからは本社の確認を挟むのか。この線引きがあるだけで初動の速さが変わります。本社と日本側の橋渡しが必要になるところなので、外部と組む価値も出やすい部分だと思います。
熱量は、リリース日ではなく日々の運用でつくられる
弐狐
日本のコミュニティは、リリースのときに一度立ち上げたら完成、というものではありません。告知を重ねて、反応に応えて、何かあったときに誠実に対応する。その積み重ねが、半年後、1年後にファンの定着として返ってきます。海外で成功しているタイトルほど、日本での初動もグローバル運用の延長で考えてしまいがちなんですが、ここを意識して切り分けたほうが、結果的に早く立ち上がると思います。
小林
ドゥのメンバーは、仕事としてだけでなく、いちプレイヤーとしてゲームに向き合ってきた人間ばかりです。海外発のタイトルを日本で大切に遊んでいる方々の熱量には、いつも驚かされるんですよね。その熱量に応えられる場所を、クライアント様と一緒につくらせていただきたいと思っています。
NAVICUSのゲーム・エンタメ支援
NAVICUSのゲーム・エンタメ特化チーム「ドゥ」では、日本語アカウントの立ち上げ設計から、日本市場に合わせた言葉づかいとコミュニケーション方針の策定、既存アカウントの分析と改善、公式生放送やイベントを含む施策の企画・運営進行まで、一気通貫でご支援しています。
「日本ではどう展開すべきか」といった検討段階のご相談も承っています。ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
海外発のゲーム・IPを日本で展開する際、日本語アカウントの開設は入り口にすぎません。会話が起きる場所も、公式に期待される振る舞いも、告知に求められる精度も、グローバル標準とは異なるためです。
求められるのは、日本語に置き換えるだけのローカライズではなく、そのなかで日本の文化や感覚に合わせて中身を調整するカルチャライズです。そのうえで、告知体制、言葉づかいの方針、二次創作へのスタンスの3点を先に決め、有事の判断基準を平時のうちに本社と日本側で握っておく。フォロワー数だけでなく、返信や引用ポストといった会話の量を手がかりにすると、変化を早く捉えられます。
日本のファンコミュニティは、日々の運用の積み重ねで育っていきます。立ち上げ時点でどこまで前提を揃えられるかが、その後の1年の進み方を変えていきます。
よくある質問(FAQ)
A1. リソースの都合上、翻訳中心の運用から始めること自体はよくある進め方です。注意したいのは、日本語化が済んだ時点で日本市場への対応が完了したと捉えてしまうことです。日本語としての自然さと、ユーザーの反応に返すかどうかの方針だけは、初期に決めておくことをおすすめします。
A2. タイトルのジャンルやターゲット層によって異なりますが、日本ではXが公式の告知とファン同士の会話の両方の場になりやすく、起点として設計されるケースが多くあります。そのうえで、生放送や短尺動画、コアファン向けのコミュニティをどう組み合わせるかを検討していく流れが一般的です。
A2. 日本展開の初期段階での整理をおすすめします。ファンの創作が活発になってから方針を示すと、すでに投稿されている内容との整合をどう取るかという難しい判断が必要になるためです。権利関係の確認を含めて時間がかかる領域のため、リリース準備と並行して進めておくと安心です。
株式会社NAVICUS
SNS戦略設計を軸にコミュニケーション支援を行う「ファンづくり」の会社です。 メーカー・小売・ゲーム・自治体など、コンシューマービジネス領域を中心にSNS戦略の設計から運用、社内体制づくりまでを支援しています。
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