「海外向けの公式アカウントは立ち上げた。フォロワーも少しずつ増えている。それなのに、コアなファンが育っている手応えがない」。日本発のゲーム・IPの海外展開について、NAVICUSにはこうしたご相談が寄せられるようになりました。以前は「これから海外に出るので、まず英語アカウントをつくりたい」というご相談が中心でしたが、当社にお寄せいただく内容は、立ち上げ後の運用フェーズの悩みへと移りつつあります。

背景にあるのは、海外におけるSNSの位置づけの変化です。情報を一方向に広げる場から、ファンと一緒に作品を育てる場へと役割が移り、公式アカウントに求められる振る舞いも変わってきました。ところが、日本市場で成功した運用の型をそのまま持ち込んでしまい、フォロワー数は伸びてもコミュニティの熱量が育たない、という状態に陥るケースが少なくありません。

本コラムでは、NAVICUSのゲーム・エンタメ特化チーム「ドゥ」のメンバー2名による対談を通じて、日本発ゲーム・IPの海外コミュニティ設計で押さえておきたい前提を整理します。

  • 海外展開のご相談は「立ち上げたい」から「立ち上げたが熱量が育たない」フェーズへ移りつつある
  • 追うべき指標を「リーチの広さ」から「関係性の濃さ」へ組み替えることが出発点になる
  • 押さえたい設計は3つ。ファンと共につくる運用への転換、短尺動画からコミュニティへの動線、開発背景の開示による信頼づくり
  • 「英語アカウントを1つ」では届かない。翻訳ではなく、地域の文脈に置き換えるカルチャライズが前提となる
  • 海外コミュニティは中長期の資産形成であり、初動の設計が投資効率を大きく左右する

海外アカウントは動いているのに、熱量が育たないのはなぜか

ドゥ ゲーム・エンタメDiv. コミュニティマネージャー 小林(以下、小林)
ご相談の内容が、ここ1年ほどで明らかに変わってきたと感じています。以前は「海外進出を検討しているので、まず英語アカウントを立ち上げたい」というご要望が中心でした。最近は「海外アカウントは運用しているけれど、なぜか熱量が育たない」というフェーズのご相談が増えています。数字の上ではフォロワーがついているのに、コアファンが形成されていない状態ですね。

ドゥ ゲーム・エンタメDiv. ゼネラルマネージャー 弐狐(以下、弐狐)
これは構造で説明できる話だと考えています。海外におけるSNSの役割が、情報を一方向に拡散する装置から、ファンとの共創プラットフォームへと機能転換しているためです。各プラットフォームの評価も、単発の拡散量だけでなく、滞在時間やエンゲージメント率、保存数といった「深さ」を示す指標が重視される方向に変化しているとされます。つまり、日本発のゲーム・IPが海外で戦うときには、「リーチの広さ」から「関係性の濃さ」へ、KPI設計そのものを組み直す必要があるフェーズに入っています。

小林
私がクライアント様にご説明するときは、「公式とファンが、同じチームで作品を育てていくイメージです」とお伝えしています。海外では特に、この「同じチーム感」が強く求められると感じますね。

弐狐
整理すると、海外展開で押さえるべき設計は3つあります。1つ目は、公式が発信する運用から、ファンと共につくる運用への転換です。ファンの投稿、いわゆるUGC(※User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ))が生まれやすい余白を、意図的に設計します。2つ目は、短尺動画を起点とした動線設計です。TikTokやYouTubeショート、Instagramリールで接点を持った人が、公式コミュニティにたどり着くまでの経路を整えます。3つ目は、信頼性と透明性の担保です。開発プロセスや意思決定の背景をどこまで開示するかを、あらかじめ決めておきます。

小林
3つ目は、海外だと特に重要です。海外のコアファン層は「なぜこの仕様なのか」「開発チームは何を大切にしているのか」を本当に知りたがっています。日本ではあまり意識されないポイントかもしれません。逆に言えば、特別なコンテンツを新しくつくらなくても、社内ですでに交わされている議論を公開できる範囲で言葉にして出すところから始められます。

「翻訳」ではなく「カルチャライズ」——地域ごとに違う前提を知る

小林
ここからが、いま一番ご相談の多いテーマです。「英語版アカウントを1つつくれば海外対応は完了」と考えていらっしゃるクライアント様は、まだいらっしゃいます。これが一番つまずきやすいパターンです。

弐狐
地域ごとに、ユーザーが滞在するプラットフォームも、コンテンツ消費の作法も、コミュニケーションの温度感も異なります。同じ英語のコンテンツでも、北米のユーザーと東南アジアのユーザーでは反応する文脈が違う。ですから必要なのは、言葉を置き換える「翻訳(Translation)」ではなく、文脈ごと置き換える「カルチャライズ(Culturalization)」という視点です。地域別に少し整理してみましょう。

北米では、Reddit、Discord、TikTokあたりが中心になります。Redditは考察文化が強く、公式が世界観設定や最新情報を丁寧に投下すると、コミュニティ側が自発的に情報をまとめたり、二次考察を広げたりしていく構造があります。Discordでは、開発チームとの距離の近さが評価につながりやすい傾向です。

小林
北米圏のご相談で感じるのは、「日本のオフィシャル感を出しすぎない」ことがコツになる場面が多い点です。ブランドの品質は保ちつつ、Discordの中では「仲間」としての振る舞いが求められる。日本の公式アカウントの丁寧な言い回しをそのまま英訳すると、かえって距離を感じさせてしまうこともあります。このバランス感覚は、クライアント様と何度も議論しながらつくり込んでいます。

弐狐
中国圏は、また別の文化圏です。bilibili、Weibo、WeChatが中心で、北米発の主要プラットフォームは利用が制限されています。ここで重要になるのが、現地のKOL(Key Opinion Leader=現地で影響力を持つ発信者)との協業設計です。日本の公式アカウントの投稿を機械翻訳して流すだけでは、文脈も温度感も噛み合わず、ブランドの印象を損なうおそれもあります。

小林
中国圏は、ハードルが高いと感じていらっしゃるクライアント様がとても多い領域です。「何から始めればいいかわからない」「情報が入ってこない」というお声をよくいただきます。まずは現地のプラットフォーム特性のご説明から入って、繁体字・簡体字それぞれのローカライズ設計を段階的にご一緒することが多いですね。

弐狐
東南アジアモバイル中心の市場で、FacebookやInstagramが引き続き強い地域です。モバイルゲームの受容度が高く、インフルエンサーマーケティングと運用型広告の組み合わせが効きやすい。ただし、東南アジアを一括りに扱うのは避けたほうがよく、国ごとの言語・宗教・可処分所得の差を踏まえたセグメント設計が必要になります。

つまり「海外展開」を一枚岩で考えると、どの地域にも刺さらないアウトプットになります。地域ごとにプラットフォーム・言語・熱量設計を分けてポートフォリオを組むことが、日本発のIP・ゲームが海外で成果を出すための前提になると考えています。

地域別に見る前提の違い

項目北米中国圏東南アジア
中心となる場Reddit/Discord/TikTokbilibili/Weibo/WeChatFacebook/Instagram(モバイル中心)
コミュニケーションの前提考察・議論が活発。開発との距離の近さが評価される現地KOLとの協業が起点になりやすいインフルエンサーと運用型広告の組み合わせが効きやすい
つまずきやすい点日本の丁寧な言い回しの直訳が距離感を生む機械翻訳だと文脈と噛み合わない一括りの「東南アジア」施策になってしまう
初動で決めたいことコミュニティ内での公式の立ち位置・発言範囲繁体字・簡体字それぞれのローカライズ方針国ごとのセグメントと優先順位

海外展開でつまずきやすい3つの場面と、立て直しの順番

小林
実際にお受けするご相談は、大きく3つの場面に分かれます。

1.立ち上げの初動でつまずく

小林
「海外向け公式アカウントを立ち上げたいが、どこから手をつければいいかわからない」という場面です。「英語圏で公式Discordを立ち上げたいけれど、どんなチャンネル構成にすべきかわからない」「中華圏のbilibiliで公式チャンネルを開設したものの、初動でつまずいている」というお声をよくいただきます。

弐狐
ここで先に決めておきたいのは、チャンネル構成やガイドラインといった「器」よりも、そのコミュニティで公式がどう振る舞うかという立ち位置です。器だけ整えても、運用の温度感が定まっていないと、投稿が止まったり、ファンの投稿が伸びなかったりします。立ち上げ前に、想定するファン像とコミュニケーションの方針を言語化しておくことをおすすめします。

2.運用は続いているが、コアファンが育たない

小林
「フォロワーは伸びてもコアファンが育たない」「日本での盛り上がりが海外に波及していない」というご相談です。ここは既存アカウントの棚卸しから入ることが多いですね。

弐狐
分析では、地域別のエンゲージメント率、リアクションの文脈、ファン投稿の発生量などを、定量と定性の両面から確認します。多くの場合、日本の公式運用の型をそのまま海外に持ち込んでいることが根本原因になっています。ここに気づいて設計を組み直すと、数か月単位でコミュニティの質感が変わってきます。

3.日本と海外の熱量が連動しない

小林
グローバルタイトルほど、日本と海外の熱量をどう連動させるかが問われます。日本で先行して盛り上がったコンテンツを海外へ波及させる、逆に海外で生まれた熱量を日本へ還流させる。こうした双方向の設計をご一緒するケースが増えています。

弐狐
グローバルキャンペーンで重要なのは、同時期に走らせつつ、地域ごとに文脈を変えることです。日本のX、北米のRedditとDiscord、中国のbilibili、東南アジアのFacebookで、共通のメッセージを地域の言葉に置き換えて届ける。この設計は自社の内製だけで完結させるのが難しく、外部と組む価値が出やすい領域だと考えています。

海外コミュニティは「短距離走」ではなく「中長期の資産形成」

弐狐
海外におけるコミュニティ形成は、短距離走ではなく中長期の資産形成です。今回ご紹介した施策の効果は、半年後・1年後にファンの熱量というかたちで返ってきます。だからこそ、初期の戦略設計と地域別のポートフォリオ設計を初動で正確に組むことが、投資効率を大きく左右します。日本市場で成功したゲーム・IPほど、海外での初動を日本の延長線で考えてしまいがちですが、そこは意識的に切り分けることをおすすめします。

小林
私からお伝えしたいのは、ドゥはゲームやIPが好きなメンバーの集まりだということです。だからこそ、IPの世界観に寄り添って、世界中のファンの皆さまと一緒に育てていくコミュニティを、クライアント様と伴走しながらつくらせていただきたいと考えています。日本のファンだけでなく、海外のファンの方々も本当に愛情深いんですよね。その熱量に応えられるコミュニティを、一緒に設計させてください。

NAVICUSのゲーム・エンタメ支援

NAVICUSのゲーム・エンタメ特化チーム「ドゥ」では、海外向けアカウントの立ち上げ設計から、多言語対応(英語・繁体字・簡体字の翻訳とローカライズ)、地域特性を踏まえたコミュニティ運用設計、既存アカウントの分析と改善、日本と海外を横断したキャンペーン設計まで、一気通貫でご支援しています。

「うちのIPの場合、海外はどう考えたらいいのか」といった検討段階のご相談も承っています。ぜひお気軽にご相談ください。

日本発のゲーム・IPの海外展開では、英語アカウントを1つ用意することがゴールにはなりません。地域ごとにプラットフォームも、コミュニケーションの作法も、期待される公式の振る舞いも異なるためです。

出発点になるのは、追うべき指標をリーチの広さから関係性の濃さへ組み替えること。そのうえで、ファンと共につくる運用への転換、短尺動画からコミュニティへの動線、開発背景の開示による信頼づくりという3つの設計を、地域ごとの文脈に合わせて置き換えていきます。

海外コミュニティの熱量は、短期間で立ち上がるものではありません。だからこそ、初動でどこまで前提を揃えられるかが、その後の1年を左右します。

よくある質問(FAQ)

Q. 海外展開は、まず英語アカウントを1つつくるところから始めてはいけませんか?

A. 始めること自体が問題なのではなく、英語アカウント1つで海外全域をカバーできる前提に立ってしまうことがつまずきの原因になります。リソースの都合で1アカウントから始める場合も、主戦場とする地域を先に決め、その地域のプラットフォームと温度感に合わせて運用方針を定めることをおすすめします。

Q. 翻訳とカルチャライズは、具体的に何が違いますか?

A. 翻訳は言葉を置き換える作業ですが、カルチャライズは文脈ごと置き換える設計です。たとえば日本の公式アカウントの丁寧な言い回しを直訳すると、Discordのようなコミュニティでは距離を感じさせてしまうことがあります。その地域で自然に響く言葉と振る舞いに置き換えるところまでを含みます。

Q. 海外コミュニティの成果は、どのくらいの期間で見え始めますか?

A. 施策の内容や地域によって異なりますが、コミュニティの熱量は短期間で立ち上がるものではなく、中長期の資産形成として捉えることをおすすめします。まずは地域別のエンゲージメント率やファン投稿の発生量など、関係性の濃さを示す指標を継続的に確認していくことが、変化を捉える手がかりになります。


▼ドゥ サービスページ
https://doux.navicus.jp/

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